ツクリモノのカノジョ②

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「……ん」  微睡ながら目を開けると、少女が僕を見おろしていた。頭は霧がかかったようにぼやけていて、僕は見惚れるように彼女を見上げていた。  数秒後、後頭部に感じる柔らかくて暖かい感触がなんなのかを理解して、僕は慌てて上体を起こした。 「って、うわ」  そんな僕を、少女は相変わらずの無表情で一瞥してきた。なぜか、ずるいと思ってしまった。僕の心臓はありえないほど脈動しているのに、少女は呼吸一つ乱していない。 「……どのくらい寝てたのかな?」  なんで膝枕なんてしていたの、とはさすがに聞けなかった。 「三十分ほど、今日はもう遅いわ。帰りましょう」  実にあっさりと、少女は立ち上がり僕に背を向けて歩き出した。僕は、その静かな背中に、一日遅れの返事を投げかけた。 「文月裕太」  少女は立ち止まり、僕に振り返る。ほんの少しだけ眉をひそめていた。いきなり発した僕の言葉の意味がわからないのだろう。だから、僕はゆっくりと、今更ながらの挨拶をした。 「文月裕太。名前を言うのを忘れていた。僕の名前は文月裕太だ」  ほんの一瞬。瞬きで消えてしまうほどの刹那。少女ははっきりと目を丸くした。不意打ちを食らわせた気分で僕はほんの少しだけ愉快になった。  だけど、少女はすぐに無表情に戻って、小さく口を開く。 「私は……スズリでいいわ。……よろしくね、文月君」
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