ツクリモノのカノジョ③

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ツクリモノのカノジョ③

「お待たせ、スズリ」  冬の夕暮れ、いつもの河川敷でスズリと落ち合うことが、いつの間にか日課になっていた。雪が降りそうな曇天の下で佇む彼女は、氷のように寒々しい。待たせているのは心苦しいが、こっちは学校が終わってから来るので仕方が無い。だけど、もうすぐ冬休みだ。この不自由さも、短期間なら解消できるのだと、心は珍しく弾んでいた。  お互いに名乗り合ってから、僕は一日も欠かさずにここに通っている。明確な約束は無いまま、夕暮れの逢瀬を日々続けていた。もちろん僕はいっつも必死で、彼女の姿を見つけるまでは不安感で一杯だ。だから、 「別に待っていないわ」  そんな彼女のいつも通りの言葉に、思わず笑みを作ってしまうのだ。  しかし、どうやらスズリはそんな僕の表情が、いたくお気に召さないらしい。曰く、『わざとらしい』そうだ。今日も、そんな僕の顔を見つめながら、無言で小さく眉根を寄せていた。もちろん、そんな彼女にそんな表情をさせたくない僕は、この悪癖を直すべきなのだが、それは無理な話だった。笑みを浮かべることに関しては、それなりの矜持を持っており、ある意味僕の生き方の集大成だったからだ。だから、僕はスズリの不満顔を好きになろうと、そおと心に決めていた。  僕とスズリは、出会ってからずっと会話しかしていない。二人して、緩やかな川の流れを見つめながら言葉を交わす。お互いの顔をあまり見ないことが、いつの間にかルールになりつつあった。しかも、声の静かな彼女は意外なことに、随分とおしゃべりで、僕は殆ど聞き役に徹していた。  スズリは存外に物知りで、その会話は多岐にわたた。新月の夜に行われる猫達の集会。すぐ隣の異世界に通じる、深夜にだけ現れる蒸気機関車。人の夢の中でしか生きられない泣き虫の悪魔。どれも僕には新鮮で、決して他人には喋れない類の話題だった。
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