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ツクリモノのカノジョ②
次の日、学校を終えた僕の足は、自然とあの河川敷に向かっていた。理由はきっと些末なことだと、半ば自分にあきれながら。あの子猫が戻っているかもしれないという微かな期待感は確かにある。ただ、それを確認するためだけと、何度も心に言い聞かせながら歩いていた。
はたして期待通りに、夕暮れの河川敷にはあの少女が立っていた。
冬の真っ赤な夕暮れは、少女の長い影法師を河川敷に作っていた。彼女は何をするまでもなく、ただ、川の水面に反射するオレンジ色の瞬きを見ていた。
思わず止めてしまった足は、ゆっくりと静かに少女に向かって歩き出していた。自分の存在を必要以上に主張しないよう、静かに土手の草を踏んでいき、少女の横に並ぶ。赤い逆光が眩しくて、思わず目を細めた。かすむ視界の隅で、少女が静かにこちらを振り返るのが解った。
「あなた、またここに来たのね」
少女の声は、昨日と同じで余分な感情を含んでいない。僕がここに来たことに対して、何一つ興味が無いと分かってしまう。そんな事に、ほんの少しだけ不満を感じる僕がいた。
「猫、帰ってきているかもしれないから」
ぶっきらぼうに吐いた言葉は、それでも僕の本音を覆い隠していた。少女から逸らした視線の先には、くたびれた空の段ボールがあるだけだった。
「私、結構前からここにいたけれど、帰ってこなかったわよ、あなたの猫」
「……別に、僕のじゃない」
口から出た言葉は、もはや防衛本能による反射だった。背負う覚悟もないくせに、未練がましく立ち尽くしている僕がいた。そんな自分の無様さを少女に悟られるのが嫌だったから、自然と話題を逸らした。
学校、どうしたの?」
僕の言葉に、少女は微かに首をかしげた。
「学校?」
「そう、学校。きみ、随分前からここにいたんだろう? ……学校、休んだの?」
冬休みにはまだ日があるので、僕ぐらいの年齢の子供は、どこの学校でも午後までは授業受けるはずだった。加えて、この河川敷に一番近い学校は、僕の通う東秋里小学校だ。僕より早くここにいた少女は、必然的に学校を休んだ可能性が高いと考えていた。
「ああ、学校ね。私、通ってないわ」
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