ツクリモノのカノジョ②

2/6
前へ
/147ページ
次へ
 素っ気なく、そんな返答をした少女は、僕から視線を外し、また、オレンジ色に染まった水面を見つめ始めた。つられて僕も彼女の視線の先を追っていた。赤色と黒色が混じり合う風景は、美術の教科書で見た、中世の壁画を思い起こさせた。 「学校に行ってないって……怒られない?」  少女との間に流れる沈黙が気恥ずかしくて、普段なら遠慮して聞かないようなことを口にしていた。 「別に怒られないわ。むしろ大人が私を学校に行かせないようにしているんですもの」  どうでも良さげに話される、予想を超えた返答だった。即座に頭の中で警告音が鳴り響く。これ以上踏み込んではいけないと、僕の理性が慄いていた。だけど、思わず顔を上げてしまった僕は一番最初に、少女の横顔を見てしまった。そこにいたのは、人形のような静かな面持ち。何のしがらみも感じさせない、超然とした生物だった。  きっと夕日のせいだ。ただ立っているだけなのに、彼女の姿が必要以上に眩しく見えたからだろう。思わず僕は口を開いていた。 「なんで? 大人は子供を学校に通わせなくちゃいけないはずじゃ……」  ああ、だけどこんな陳腐な台詞じゃあ、きっと少女には届かない。彼女は僕の言葉を小さく鼻で笑い、皮肉気に唇を歪めた。 「しょうがないでしょ。私がいたら、周りの子たちが潰れちゃうから。でも、別にいいわ。この世界で生きていく知恵なんて生まれてきたときから持たされているし」 「つ、潰れるって……」  あまりに暴力的な表現に、思わず絶句をしてしまう。 「私、普通じゃないから」  切って捨てるような少女の言葉。この時、僕は初めて少女の顔に僅かな熱が宿るのを見つけられたきたした。 「私、魔法使いなの」  挑むように世界を見つめる彼女の視線、それを、僕はなぜだか見惚れてしまったのだ。かくして、灯に群がる羽虫のように、僕の世界は彼女を中心に回ることが決定したのだ。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加