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「行きましたか」
「なんだマスター、さみしそうだな」
「彼のように2カ月もここに留まっていた魂が珍しかったので、少し感情が移っていましてね。話し相手がいなくなるのは寂しいことです」
「何を言うか。ここはそういう場所であろう」
「わかっていますよ。あのまま彼が生きる意志を見せなければ、地獄へと送らなければいけなかったですから」
「自殺は地獄逝き。そういうルールだからの。しかし瑞貴といい、寿命で自殺ならともかく、寿命になっておらぬのに自殺を図る人間が多すぎる」
「あまりにも自殺未遂が多いからここが生まれたのですよ。まだ生きる意志が僅かでも残された魂だけがたどり着ける場所。それがこの店『トラオム』です」
マスターがオレンジジュースを姫の前に置いた。
「彼を救って頂き、ありがとうございます」
「何だ。気が利くではないか。たまには人間にコトバがいかに大切かを知ってもらわねばと思い、瑞貴を救いたいというマスターの誘いに乗ったまでだ。そうしておかねば、わしは消えてしまうからの」
「コトバの神ですからね」
「そうだ。わしはコトバでありコトダマだ。コトバがなければ、何も存在せぬ。お前だって、私が存在を否定すればいなくなるぞ?」
「それは困りますし姫、貴女だって退屈しますよ」
「・・・お前は今の状況に満足しておるのか?『もう、やめてやる』なんて思わぬのか?」
「姫、私は貴女に生み出された存在でしかありません。私が今ここにいるのは貴女が望まれたからです。『やめてやる』なんて思ったことありません」
マスターは微笑みながら言った。
「そうか。お前の存在がわしのコトダマか」
姫はマスターの微笑みを見て、くすっと笑った。
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