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流れる涙はとても透明で美しい、それなのに刈谷には美月が血を流しているように見えた。
「ねえーー私はついに恐ろしいものから解き放たれて旅立つんでしょうか?・・・・・・それとも人の愛するものを理解できない化け物としてこの世界から追放されるんでしょうか?」
彼女の涙は悲しみを訴えるだけのもので激しくはない、けれど刈谷にはその顔が夜叉に見えた。人から恐れられる化け物の面を刈谷はずっとこう思っていたーーなんて悲しい顔をしているんだと。
「美月ちゃん」
「はい」
「俺には君の気持ちは分からない」
「・・・・・・すまないと思っている。けれど俺は平凡な人間でーー悲しみを想像することもろくにできない。君が救われるのかどうかもわからない」
一人きりの地獄に堕ちていくのかも、分からない。
「・・・・・・そうですね、私にも分かりません。もしかしたら永遠に、死ぬまで」
席を立つ気配。何かが切り離され、取り返しのつかない事が起きる予感。彼女は遠くへ行き、きっと帰らない。
「待てよ」
だから彼女の腕を掴んだ。彼女は立ち上がれず、遠い世界にまだ旅立てない。
「でもいつか君の気持ちが理解できる日が来るかもしれない。だからーー本当に誰もいない場所に行くのはやめてくれ」
「・・・・・・」
「勝手なことを言っている。君は自分の特性を理解して、一人で自分の始末をつけようとしている」
「・・・・・・あなたは勘違いしています、私は自殺しに行くんじゃありません」
「でも、もうほとんど人と接触しない生活を始めるつもりなんだろう。だったら俺の世界では死んだも同然だ」
一体何を話しているんだろう、彼女なんてろくに会話もしていない存在だったのに。どうして必死になるんだろう。
「捨てないでくれ、今までいた世界が辛くても何も言わず全てを絶つことは俺には許容できないーー予定してた出発は中止してくれ」
「あなたに何が分かるんですか」
夜叉の顔に怒りの灯がともる。けれどさっきより理解できる色だった。
「ああ、分からない。けどこれは分かるーー君はこれから君を理解できるかもしれない人々に何も告げずいなくなろうとしている。それはダメだ」
「腕を離してください!」
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