第1章

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「ーーはい、ジャンルや忙しさの問題ではありません。変な話ですが、私が音楽に関われているのは忙しくて曲を聴く暇もない『仕事』だからですよ。  ーー刈谷さん、私が初めて音楽の演出の真似事をしたときの話を知っていますか?」 「当然知ってるさ、伝説の始まりだ。誰でも知ってる、音楽関係なら広く知れ渡っている。ーー君はあるアイドルグループ、いや読者モデルで組んでいたグループの一員だった。モデルだったからそれまではオフィシャルには音楽活動はしていない。 でもよくある話で君たちはよく売れたから、ありがちに次は歌ってCDを出さないかって話になった。そして君たちのグループも所属事務所も快く同意したーーあってる?」 「はい、おおむねは。みんなとても喜んでいました、チャンスだって」 「では続けるね。しかし君はこのCDのプロモーション映像の演出に参加させてほしいと頼み込んだ。撮影と平行して、ましてプロでもないのに無理だと断られたのに辛抱強く食いついた。話題作りにもなると言うことで、本業に支障がない範囲でということで了承された。  参加し始めた君は激務を必死にこなした、それこそ寝る間もないほどに。そしてできあがったプロモーションは駆け出しアイドルのものとしてはあり得ない出来になった。いや、それはもう作品だった」 「・・・・・・」 「昔話したことがあるよ、そのとき君と組んでた演出家と。彼は言っていた「知らないときはただのアイドルもどきが物好きだと思っていたが、私は本当は自分が手をどんなに伸ばしても届かない存在を会話していた」ってなーー演出と出演をアイドルグループの一員が兼ねている話題性もあって人はよく手に取った。  結果、CDはバカ売れ。一発だけじゃなく、何度かプレスされて結構長生きのCDだった。音楽不況に珍しい持続性だった。PVはテレビで再三放送されて、その頃には音楽演出家・日野美月の伝説の始まりだ。・・・・・・正直俺もあのPVのファンだ。日頃アイドルの音楽なんて聴かないのにな、でも日本中にそんな奴はたくさんいた」 「私はどうして素人のくせに演出なんかしたんだと思いますか?」 「今までは、君が天才だからビビっときたんだと思ってたよ・・・・・・今までは。でも違うんだろう?」 「・・・・・・私たちは元々読者モデルのグループでプロとアマの中間のような集団でした。アイドルになりたいって子も結構いました。
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