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『朧! あとは任せた!』
コーヒーを飲んでいた朧のインカムに、零の声が届く。
『あぁ!』
朧は、零に一言返事を返す。
すると、その5秒後、自分の目の前に天童穂積が現れた。
朧は、その姿を確認すると飲んでいたコーヒー缶をゴミ箱に捨てながら、彼に声を掛ける。
「天童穂積さん?」
自分のフルネームをいきなり呼ばれ、その場に立ち止まってしまった。
不意に、自分の名前を知っていた男性と目が合ってしまう。
男の恰好は、ダークブラックのスーツに、白シャツに赤いネックタイ。そして、スーツと色を合わせたダークブラックの靴。
穂積は、一応警戒しながら、声を掛ける事にした。
「いま、自分の名前呼びましたか?」
「はい!」
「……あの? どこかで、お会いしたことありましたっけ?」
相手をこれ以上怒らせない様に、そして、もしかしたら、自分が忘れているだけで、相手は自分を知っているかもしれないので、言葉を選びながら返事を返した。
しかし、相手から帰ってき言葉は意外な言葉だった。
「いいえ。自分は、ただ、頼まれたからここにいるだけです」
そう穂積に、告げるといきなり腕を掴んできた。
「何するんですか? 警察呼びますよ!」
いきなり腕を掴まれた穂積は、振り払おうとするが、それを上回る強い力で穂積の腕を掴んでくる。
「自分は、別に構いませけど、いま警察が来て困るのは、天童さん。そちらではありませんか?」
「!」
彼の言う通り、いま、警察がここに来たら会社だけじゃあなくて、ゆかりにも迷惑が関わる。
穂積は、ゆかりの居場所を護る為に、今は、目の前にいる男性の言葉に、従う事にした。
「で、自分になにが訊きたいんですか? これから派遣先に、出勤なので、訊きたい事が、あるなら短めでお願いしたいですけど?」
厄介ごとはごめんとばかりと朧の方を見る穂積に、朧は、さらに追い打ちをかける。
「短くなるかは、貴方の回答次第ですよ? あと、自分から逃げようなんて思わないで下さいねぇ?」
「!」
朧の手を離した事で、隙を見て逃げようとしていた穂積は、朧の言葉で思わず後ろを振り返る。
「お前……」
すると、さっき自分に道を尋ねたきた三つ編み女の子か立っていた。
「お兄さん? また会いましたね? 先ほどは、ありがとうございました」
自分に向かって、笑顔を向けながら、お礼を言ってくる女の子。
そんな女の子の笑顔と感謝の言葉に、穂積は全てを悟った。
俺は、この女の子に嵌められたんだ。
そして、いま、自分の目の前にいるこの男性も……
しかし、そんな穂積の考えは、彼女が、朧と呼びかけた男性に向けた発言によって一瞬で崩れ落ちた。
「この男は、俺たちの依頼人じゃあなくて、ターゲットだぞ! なに遠慮してんだよ?」
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