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「一ノ瀬さん。正直に答えても怒りませんか?」
遼の質問に、少し考えながら口を開く。けれど、目は笑っていない。
最初に零が自分達を瞬間、彼はこっちが声を掛ける前に走り去ってしまった。
そして、追いついて彼の前に立ったら、いきなりカッターとコンパスで首筋を切られそうになった。
「怒らないよ」
遼が怒らないと告げると、
「本当ですか? 本当に怒りませんか?」
零が前乗りになって尋ねてきた。
「約束する。だって君は、社長の大事なお客様だからね」
「……そうですねぇ」
小さく、それも悲しそうに呟き、元の位置に戻る。
「……零くん?」
消えそうな悲しそうな声に遼は、彼の名前を呼んだ。
「あぁ! すみません」
零は、慌てて頭を下げ、自分の頬を軽く叩いた。
「どうかしたの?」
明らかにさっきまでと様子が違う零に遼は、違和感を覚えた。
「……もしかしてBlack Birdってやばい所じゃありませんよねぇ? 例えば、表沙汰に出できない事を平気でやるとか……しませんよね? 自分が今から行こうとしている所って普通の捜し物専門の探偵事務所で、いま自分の目の前にいる一之瀬さんも殺し屋じゃなくて普通の捜し物専門の探偵ですよね? 勿論、電話で話した社長さんとあなたの相棒さんも普通の捜し物専門の探偵ですよね?」
(……社長が会いたいわけだ。こんな才能があるなら)
自分に零くんを迎いに行くよう頼んだ時の社長の顔は、原石を見つけたと言わんばかりに、にこやかな顔をしていた。
自分が社長室に入った時は、零くんが社長にまさに自分の過去を話し始める所だった。
でも、社長は、零くんの声を聞いた時点で会いたいと決めていたらしい。
きっと、声を聞いた瞬間、なにかを感じ取ったに違いない。
そして、過去の話を訊いて確信に変わった。
いま自分が、確信したみたいに社長も。
「殺し屋か。でも、そう思いたくもなるよね。片目を隠した男と銀髪で黒縁めがねを掛けた男がダークグレーのスーツ着ていきなり目の前に現れたら、誰だって殺されるって思うよね」
「……はい」
素直に頷くと同時に確認なしに逃げた事を謝ろうと零が頭を下げようとしたら、
「零、これ、耳につけて貰ってもいい?」
「!」
逃げた事を謝ろうとしたら、いきなり小さい袋を渡された。
袋の中には、音楽、ラジオなどを聴く時に使用するイヤホンに細い棒がついたものが入っていた。
「あの? イヤホンですか?」
「イヤホンとは少し違うかな? これは、インターカムって言うんだ」
「インターカム? で、これでなにができるんですか?」
袋からインターカムを取り出しながら尋ねる。
「零くん、事務所にはその携帯電話で掛けてきたの?」
遼は、零が持つプリペイド式携帯電話を指差す。
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