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「誰だよそんなんするやつ。」
「業者じゃねぇの。」
何も知らない彼らは好き好きに言う。この会話が聞こえているはずの彼女だが、改造に改造を重ねたこのロッカー。意外と心地よく、眠ってしまっていた。予鈴まで残り五分。
「鍵が開かないんだったら、先生に言えば開けてくれるのにな。」
移動の多いいこの学校。荷物をすべて持ち運ぶと重いので、要らないものはロッカーに仕舞っている。
貴重品管理のために鍵を一年時に渡されるが、数字を忘れ、開けられないがために鍵を壊してもらう人がいる。私もそんな時期があった。
「力ずくで開けられんの?」
「蹴り抜けば開くだろうけど、壊れる。」
何とも物騒な会話。こんな会話を聞きながら起きたらさぞ不機嫌になることだろう。
「……。」
そう、今まさに寝起きの彼女は恐怖していた。彼女の心境を代弁してみると、いやだ私は死にたくないごめんなさい悪い事して御免なさい許してください蹴り抜かないでください死んでしまいます。とか、そんなものだろう。
そんな彼女に、希望の光が見えた。
「ちょっと力ありそうな奴にでも頼りに行くか。」
「誰だよ。」
「知り合い。」
彼らが一度離れるようだ。足音が去った後(とはいえ昼休み中だから他にも人は通っているが)、急いで自分の体操服を持ってロッカーから出る。
名前を再度確認の後、急ぎ足で更衣室へ向かった。
五分もしない間に彼らは帰ってきた。一人増えた状態で。
「おい、鍵は壊せないぞ?」
「え、さっきは無かったのに。」
ここで、メロディーチャイムが流れ出す。私の母に聞くとそれは何かと聞かれたので説明しておくと、チャイムが流れる前に流れる音楽の事。
チャイム一分前辺りから流れ出すので、流れ出してから教科書を出すと丁度いい感じで教師が来る。これは予鈴前だから、そろそろ急がないな、というくらいか。
彼らの場合は、次が体育で、廊下の端まで歩いたら五分ほどで、着替えて。そこから下駄箱まで行き靴を履き替えグラウンドまで行くのだから、予鈴から五分でたどり着くのは難しい。死の宣告の様なものだ。
彼が体操服を手に入れるまであと五分。
「は、早く開けろよ!」
「うるせーな、今やってんだろ。」
「チャチャチャチャイムが―……。」
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