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「ゼラニウム、何しよう。」
今呼ばれたゼラニウムという名は、三才の彼女の愛読書であった花図鑑にあった名前だ。
もちろん彼女が文字を読めたわけではなく、気に入った花の名前を母に聞きに行っていたのだが。迷った末、パット思い出したのがこの名前だったわけだ。
花言葉も知らない少女がこんな名前を付けるとは。運命でもあるのだろうか。
「歌うのは気分じゃないし、ピクシブ眺めるのもなー。小説はスマホからの方が読みやすいし、ニコニコ?いや脱出ゲームでもするかな。非常出口の人を集めるやつとか当分やってないし。」
考えながらも手は動いていて、タイピングゲームのスタート画面まで来ていた。
「今日もやりますか。」
数時間後。疲れたー。そう言って後ろに倒れる彼女は未だ彼を抱きしめていた。
疲れたと言っていても表情筋は緩み、えへへと、笑っている。普段の、無表情な彼女を見ている人が見ると、誰だか分からないかもしれない。
幸せそうな彼女の顔が、急に険しくなる。
「明日、また学校行かなきゃならないのか。」
学生の多くが思う事ではないだろうか。彼女も一人の人間。同じようなことを思うことだってある。
問題は、彼女の場合勉強が嫌だとかそういう理由ではなく、人に会いたくないからという事か。
「ゼラニウムはいつも一緒に居てくれるから好きだよ。」
ぬいぐるみに顔をうずめる。セリフを聞かずにこの光景を見ると可愛いのだが、ぬいぐるみに告白する少女はどうなのだろうか。これでも彼女の年齢は一六歳である。
「あんな、いつ消えるか分からない生き物。大っ嫌い。」
握りしめる力が強まる。肩を震わしているが、格好も変わらず、移動もせず。ただその場に留まっている。
数分もすれば、そこから微かに寝息が聞こえた。そこからまた少し経てば、彼女は彼氏とともに床に転がっていた。
「かなでー、そろそろ下りてきなさーい。」
その声で、目を赤くはらした彼女が起き上がった。
「もうすぐ学校か。はぁ。」
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