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葉や幹に枝、もちろん実にも害虫は居る。
幹をめくればびっしり、なんてことも多々あるだろう。葉の裏には泡がたくさんついていて、枝の生え際にはまた何かが巣を作る。赤や黒のよく分からない生き物がいて、穴には何かの幼虫とそれが出した液体が……。
こほん。と、とりあえず、この桜の木には彼女が嫌う生き物が大勢住んでいる。先ほど彼女の手の甲を這って行ったのも、当然ここの住人である。
何も知らないものが見たら、思わず撫でてみたくなる程のふさふさの毛を持つ細長い生き物。しかし撫でてしまえば、その中に隠れ住む短い毒毛に触れ、長い間かゆみと戦うことになる。わさわさと、と言ったところで分かったものがいたかもしれないが、その通り。毒々しい色の毛虫さんです。
「うっ……?」
毛虫を見たまま固まり、口をわなわなと震わす。
「う……わ……。」
さすが、生き物嫌いを語る彼女。この毛虫が横切ったことで叫ぶのだろうか。自分の手は一切気にせず、奴が横切らなかった腕を高く振り上げ
「この浮気者!」
勢いよく振り下ろした。
その後、怒った彼女は今後一切桜の木に抱き着かないことを決めた。彼女曰く、私といるときに他の生き物を住まわせるなんて許せない、との事だ。
後日、その手の腫れを見て、桜の木を思い出し、涙を流す彼女を見た者がいたとか。
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