『天神四区』

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 階段を上ってくる音がしていたので、もう説教は懲りたと、窓から屋根に出た。すると、屋根に征響がやってきた。 「嫌な事があると、いつも、屋根の上だな」  行動を読まれていたらしい。 「ほら、夕食だ」  トレーに、おにぎりとおかずが盛られていた。 「弘武は犯罪が四区のせいになるのが、嫌なのだろう?」  おにぎりを食べながら、それも読まれているのかと頷く。四区の中学出身で、中の様子はよく知っている。不良が多いと言われていたが、それでも仲間思いで、気のいい連中であった。 「俺は、ずっと私立だけどな。藤原の家は知っているから、やっぱり同じ気分だ」  それに、倍薬(ダブル)など、まるで漢方薬局である久芳に喧嘩を売られたようだと言う。 「佳親は子供ができなくて。本当に弘武を自分の子供だと思っている。少しは頼れよ」  それは、そう思うが、誰にも言えない事があった。俺は藤原の本家で、幾度か佳親と将嗣が会っているのを見た。二人で庭を見ながら酒盛りしている時が多いが、それだけではなかった。  俺が、おにぎりを握り締めていると、征響は勝手に理解した。 「ああ、見たのか。そう、将嗣さんと佳親は幼馴染でね、今も恋人同士」  俺は、勢いよく征響の顔を見て、慌てて背けた。その通りで、俺は藤原の家で、将嗣に押し倒されている佳親を見た。佳親は、怒りもせずに笑っていた。 「……季子さんへの裏切りではないの?」 「季子さんが後だから。それに、季子さんは知っている」  知っているからいいというものではないであろう。 「まあ、いずれ分かるよ。あの二人の絆は深いからさ」  二人は季子と佳親であろうか。 「俺は何にもできない。四区ではないし、ただの高校生で、報復も取り締まりもできない」 「……しなくてもいいだろ、それ」  俺が首を振ると、征響が俺の肩を叩いていた。 「ま、そんなところは弘武だよな」  征響は食べ終わったトレーを受け取ると、三階から飛び降りていた。 「試合、見にきてくれて、嬉しかった」  振り向かずに征響が礼を言ってきた。  さて、俺も立ち止まるのは性に合わない。藤原に連絡を取ってみると、あれこれ、又言われてしまったが、場所代など交渉していると言っていた。  これで、もう、倍薬(ダブル)は遊びではなくなった。
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