118人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
階段を上ってくる音がしていたので、もう説教は懲りたと、窓から屋根に出た。すると、屋根に征響がやってきた。
「嫌な事があると、いつも、屋根の上だな」
行動を読まれていたらしい。
「ほら、夕食だ」
トレーに、おにぎりとおかずが盛られていた。
「弘武は犯罪が四区のせいになるのが、嫌なのだろう?」
おにぎりを食べながら、それも読まれているのかと頷く。四区の中学出身で、中の様子はよく知っている。不良が多いと言われていたが、それでも仲間思いで、気のいい連中であった。
「俺は、ずっと私立だけどな。藤原の家は知っているから、やっぱり同じ気分だ」
それに、倍薬(ダブル)など、まるで漢方薬局である久芳に喧嘩を売られたようだと言う。
「佳親は子供ができなくて。本当に弘武を自分の子供だと思っている。少しは頼れよ」
それは、そう思うが、誰にも言えない事があった。俺は藤原の本家で、幾度か佳親と将嗣が会っているのを見た。二人で庭を見ながら酒盛りしている時が多いが、それだけではなかった。
俺が、おにぎりを握り締めていると、征響は勝手に理解した。
「ああ、見たのか。そう、将嗣さんと佳親は幼馴染でね、今も恋人同士」
俺は、勢いよく征響の顔を見て、慌てて背けた。その通りで、俺は藤原の家で、将嗣に押し倒されている佳親を見た。佳親は、怒りもせずに笑っていた。
「……季子さんへの裏切りではないの?」
「季子さんが後だから。それに、季子さんは知っている」
知っているからいいというものではないであろう。
「まあ、いずれ分かるよ。あの二人の絆は深いからさ」
二人は季子と佳親であろうか。
「俺は何にもできない。四区ではないし、ただの高校生で、報復も取り締まりもできない」
「……しなくてもいいだろ、それ」
俺が首を振ると、征響が俺の肩を叩いていた。
「ま、そんなところは弘武だよな」
征響は食べ終わったトレーを受け取ると、三階から飛び降りていた。
「試合、見にきてくれて、嬉しかった」
振り向かずに征響が礼を言ってきた。
さて、俺も立ち止まるのは性に合わない。藤原に連絡を取ってみると、あれこれ、又言われてしまったが、場所代など交渉していると言っていた。
これで、もう、倍薬(ダブル)は遊びではなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!