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ランチは普通においしい。特に量は多い。俺が、食べきれずにいると、野中の弟達にトレーごと奪われ持ち去られた。
「ここは弱肉強食ですから」
もしかして俺は弱なのであろうか。
「印貢さんは、久芳先輩の弟で、四区の中学出身。藤原君の親友ですね」
俺は頷く。藤原と征響の名前が出ると、俺は虎の威を借るキツネの気分であった。
「印貢さんが、小学校時代に同居していたのが、悪役レスラーの馬佐良(バサラ)ですね」
どうして野中が、そんな事を知っているのだろうか。馬佐良は母親の若い恋人であった。それこそ親子のように、母とは二十歳も年が離れていた。恋人、本当のところはどうなのか、母が亡くなった今では分からないが、喰っていけないレスラーを母親はつい拾ってしまったと言っていた。
俺はこの馬佐良が、空手の選手だった頃から知っていて、年中、喧嘩の相手をしてもらっていた。今、悪役レスラーで有名になってしまったが、俺にとっては、昔の金のない空手家の方が馴染みがある。
馬佐良は優しい人で、俺が母親に死なれたと知って、引き取りたいと申し出てくれたくらいだ。
「他に、レイビン・ホーさんとも同居していたことがある」
それは誰だと聞かれたくないが、俺が知っているホーは、貧乏留学生であった。同じく母が拾ってきた。しかし、ホーは実家に戻ったらしく、それがとんでもない大富豪の家であった。カンフーが得意で、よく庭や公園で一緒にやっていた。
他にも色々な人と住んでいた。
「今回、ホーさんから依頼を受けました。依頼内容は、ボクの弘武が危険ではないのかな?調べて、です。ホーさんは日本人から、倍薬(ダブル)を勧められて、それがこの土地のものであると知り、印貢さんが心配になったそうです」
野中は、ホーに俺が薬嫌いで敵対しそうだと告げた。すると、ホーは野中に金を払い、俺に協力して欲しいと告げたという。
「ホーに雇われているのか。いい報酬だったろ」
ホーは俺にも、クリスマスプレゼントだとか誕生日プレゼントだとかで、物を送ってくれる。バカ高い時計や、金の指輪などで、すごく趣味が悪い。お返しが出来ないので、返すから引き取りに来いと、メールで怒っている。
「報酬よりも、弟の学費の援助が嬉しかったですよ。久哉が久芳先輩と一緒のグランドに立てて嬉しい」
でも、野中に裏の家業があると分かった。
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