『天神四区』

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 野中は立ち上がると、中央の画面を切り替えた。弟達も、画面の前に揃っている。 「これは、ここの防犯カメラです。このビルで倍薬(ダブル)が製造されています」  窓のない倉庫のような建物であった。通過する荷物の、名前がストップしては拡大されてゆく。そこにはカプセル、様々なサプリ、そして薬草のようなもの、市販の薬などが納品されていた。  他に学生が、ビニール袋に入れて、植物を売りに来ていた。 「こんな簡単な材料で、倍薬(ダブル)ができるものなのか」  個々としては、危険な物は納品されていない。中で製造されているのも、食品の製造としては不適合なのかもしれいが、そう重い罪になるものではない。  この、異なるものを重ねて飲むことで、危険な薬となるような物は、どう取り締まるのであろう。 「ここが接待場です。口封じにも使用しています」  どう口封じになるのか。 「先生と生徒のように、付き合ってはいけない組み合わせがあります。それを上手く利用しています。生徒は先生と寝る事で、ルートを維持できる。先生は無償の接待を得る。販売元は量を隠れて捌く事を重視しています」  罪を共有することで、他言できない状況を作っているのだ。 「学校という独立国のような場所だからこそ、罪が裁かれない」  手に負えなくなるほどには、販売を広げないのが、倍薬(ダブル)の怖いところであった。噂が噂を呼び、全国から買い付けにやってくる。そこで、売人はルートを必死で守り、利益を得ようとする。 「接待は警察が取り締まれる。それは任せておけばいい。でも、倍薬(ダブル)はなくならない」  相澤は、どこから持ってきたのかビールを飲んでいた。  相澤の仕事は、学生内で何が発生しているかのリサーチで、自殺者の調査であったので、倍薬(ダブル)に特化しなくてもいい。 「でも、倍薬(ダブル)が自家製のような造りなので、事故は多発しています」  野中が小さな新聞記事や、インターネットの書き込みを用意していた。  胃の中が全てサプリで、消化できずに、胃が炎症を起こしている画像。全身痙攣で、ショック死。他、アレルギー発症による窒息死などがあった。 「印貢君は、あんまり怖い写真は見なくてもいいよ」  小学生が俺の前に来ていた。怖い映像が出ると、心配そうに俺の顔を見る。
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