『天神四区』

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「印貢は坊の親友だぞ。手を出したのか!!!!!!!」  俺と北川は、揃って手を振って否定した。でも、不審の眼差しを感じる。 「北川!!!!」  藤原の父親が、足袋のまま門まで走り込んできた。後ろから下駄を持った青年が追いかけてくる。 「違います。倍薬(ダブル)の接待現場を見に行ったら見張りに見つかり、この人が助けてくれました」  正直に言うと、藤原の父親、将嗣(まさつぐ)が下駄を履いて俺の前に歩いてきた。  将嗣は、俺の耳を引っ張ると頬を叩く。 「もう一回、言ってみろ」  将嗣はかなりの長身で、耳を引っ張られると俺は背伸びした格好になる。垂れ目は、藤原と同じであるが、迫力は数段父親の方が上であった。 「倍薬(ダブル)の現場を見に行きました」 「弘武。危険には近づくなと、いっつも言っているよね?この耳は飾りなのかな」  耳の次に、頬も引っ張られていた。 「二度と、倍薬(ダブル)に関わるな」 「無理です」  今度は襟首をつかまれていた。将嗣はかなり短気で、藤原もよく殴り飛ばされている。俺も、イタズラをして、日本刀で切り殺されそうになったことがある。  藤原の親と言っても、俺の兄である佳親と同じ年であった。 「無理だと……」 「仲間を食い物にされているのに、黙って見ていろと言いますか……?」  俺が将嗣を睨むと、周囲が静まってしまっていた。 「分かった。家に送っていくから、中で待っていろ。俺は、北川と話をする」  俺が逃げようとしていると、ここで働いている金田が俺の腕を掴んでいた。 「逃がしませんよ」  藤原の本家というのは、海の見える丘の上にあった。通された部屋の障子を開けていると、庭が見え、庭の先には海が見えていた。俺は縁側から外に出て、秋田犬のクマに近寄る。  先が海だけにある、芝の小山にクマを引っ張っていくと、ボールを投げた。 「クマ、来い!」  このクマが子犬だった時、藤原と連れまわしていた。力比べもしたし、自転車で競争もしていた。  空の終わりに海がある。果てしない先まで、海が繋がっている。俺と藤原は、この丘でよく話をしていた。  クマは大きいが、穏やかな性格の犬であった。でも、今日は、そのクマが激しく海に向かって吠えていた。 「クマ、誰かいるのか?」  クマは何に吠えているのか。俺が、吠えている方を見ると、見知らぬ男がふらりと入ってきた。
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