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手を懐に隠しているのは、そこに凶器があるからだ。懐に浮かぶ大きさからすると、銃であろうか。
「クマ、行くぞ!」
クマと戦闘訓練をしていた過去を思い出す。クマは俺の手の指示に従う。側面からかかれと命令すると、クマが男の横に突進していた。
「弘武!逃げろ」
逃げろと言われても、ここは芝生の丘で隠れる場所がない。伏せていても、隠れはしない。
男が銃を出した瞬間に、俺は相手に走り寄り足で銃を蹴り飛ばす。次に、クマに腕を咬めと命令する。男が、犬に咬まれて慌てた隙に、顔面に回し蹴り、腹部に再度回し蹴りを入れる。
「弘武!逃げろは聞こえんのか」
後ろから将嗣にゲンコツを入れられ、俺は後ろに下がった。
「誰に雇われたか吐かせろ。何も言わないようであったら、夜に船に乗せて某国のあたりに流れるように捨てて来い」
某国というのは、名前は言えないが国際交流のない、行けない国の事であった。国交がなければ、一生帰って来られない。
「分かりました!」
数人の男が襲撃者を、連れて行った。
「弘武。俺は倍薬(ダブル)を許しているわけではないよ。ただ俺達は警察ではない」
場所代を払え、売り上げの一割を奉納せよ。その他、接待を受ける権利を貰うという。
「売人にも関係者にも同じく。気に入ったら抱く権利を貰う」
そういう権利というのは、何であろうか。殴る蹴るは警察に捕まるが、合意で抱くでは捕まらない。
「簡単に了承しますか?」
「それは、蛇の道は蛇のようなもので、了承させるよ」
藤原家は本業はヤクザであった。その道の者に抱かれるということは、一般人に抱かれるとは大きく異なる。理論や理屈は全く通用せずに、その容姿と体の具合だけで評価される。その屈辱を、学生は知らないであろう。
「だから、弘武。そっちには関わるな。弘武は、自覚はないだろうけど美人だからな。目を付けられたくない」
クマが俺の手を舐めていた。まだ遊び足りないのであろう。かなり尻尾を振って喜んでいるので、今の戦闘で役に立った事も褒めて欲しいらしい。俺は、クマの頭を思いっきり撫ぜて褒めまくる。
「クマ、最高!」
クマは、もうデレデレに喜んでいた。俺の顔も舐めようと、飛びかかってくる。
「内部のことは北川から聞いたし、弘武は家に帰れ。送っていく」
これで、将嗣と帰ったら、佳親に根掘り葉掘り問い詰められるのは見えていた。
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