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私立の方まで走っていると、屋上で何か叫ぶ人影を見た。
「何だ、あれ?」
金網越しに覗いてみると、下に人が集まっていた。
「飛び降り?」
ふざけて誰かが言ったのだが、本当に、飛び降りしていた。
「ぎゃああああああ」
怖くて下が見られない。立ちすくんでいると、救急車がやってきていた。
「帰ろう……」
動揺してしまって練習どころではない。帰って、先輩に知らせると、足や手が震えている一年が落ち着いたら、今日の練習は終了となってしまった。
俺は、家へは帰らずに相澤の家に向かうと、合い鍵で中に入った。返事も無かったのに、相澤は部屋にいて、大量の画像を確認していた。
「お帰り、印貢」
無精ひげの相澤は、とても高校生には見えない。実際、相澤は高校生でもない。
「私立で飛び降り自殺があって、部活が終了になった」
相澤は、タバコを銜えて振り向かずに頷いていた。
「藤原が動いてさ、学生が売人を辞めようと必死になった。藤原は容赦しないよね」
売人として残ろうとした者には、容赦なく夜の相手をさせたらしい。その結果、残る者はほんの僅かになった。やはり、本職のヤクザに関わるのは怖いのだ。
「便宜を図っていた先生達には映像が送られたそうだ。警察が取り締まると題名が付いていた」
では、どこかから映像が流出しているのか。それは、今の四区の状態を考えると、危険であった。制裁を加える売人を、四区は必死で割り出していた。
「実際に未成年に手を出した者は全て、取り締まる」
相澤が、どこかの防犯カメラの映像を指で叩いた。警察が出入口を固めて、中に突入していた。
映像を見て、これでは収まらないと予測できてしまった。
犯罪にならない犯罪は多い。
「相澤、藤原が動いたということは、倍薬(ダブル)が一般人の扱う物ではないと宣言したということだよ」
だから四区が動けるようになった。相澤が振り返って俺を見ていた。
「四区が死区になるということなのか?」
四区が死区になる。これは、四区での言葉であった。
死人に口なし、死人に法律なしなのだ。四区には無法地区があり、そこに入ってしまうと、誰にもどうしようもできない。
実際に警察が取り締まったが、一般人しか逮捕できなかった。
「まあ、学生が安易に手を出せなくなったと言う事で、学園の刑事としては、解決とするしかないのかもな」
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