『天神四区』

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 本当の犯罪者というのは、警察の動きに敏感であるものだ。易々と捕まりはしない。 「……学生世界というのも、結構、難しいものだな」  相澤は、冷蔵庫からビールを持ってくると飲み始めていた。  四区の動向も気になり、藤原に幾度か電話してみたが、話し中であった。  映像が流出しているということは、売人が誰なのか分かってしまったということであった。四区には独自のルールがあるので、単独で手を出した者はいないであろう。  駅前の防犯カメラに、人が集まっていた。画面を移動してみてみると、全裸で猿ぐつわと両手両足を縛られた男の背中に、売人とマジックで書かれていた。それが数人、駅前に座らされていた。 「……四区の仕業だね」  これは軽い方だ。社会的制裁という部類であった。  袋に詰められて運ばれて、車から落とされてゆくのだ。 「適当な所で、終了させないとな……」 「天狗には終了の権限があるのか?」  天狗というのは、俺であろうか。俺に、そんな権限はない。 「いいや、ない。でも、四区に警察を呼びたくないから、これ以上やったら、制裁を下すというチームを組む」  そうやって、制裁を脅しで止めるしかない。元々は、四区が死区になり、無法化で手に負えなくなった場合の、ストップ係は天神であったという。  四区は、男性は全裸で背中に売人とマジックで書き、女性は水着で顔に売人と書いて、人混みに捨てていった。  売人達も怒ったのか、四区の学生を拉致してしまった。駅前のトイレの付近で、拉致の現場が映されていた。 「あ、これはまずいよね」 「そうだな」  衝突する前に、学生を助けた方がいい。 「では、天神チーム」  野中に聞くと、監禁している場所はすぐに分かった。港の倉庫の一つらしい。 「藤原……」  やっと藤原に電話が繋がった。しかし、拉致された学生を助けに行くとは言えないので、口ごもってしまった。 「弘武。まず、佳親さんに相談しろ。それから動け」  藤原も何かを察してくれたが、四区は四区でしなくてはいけないことがあるのであろう。 「分かった」  電話を切ると、俺は荷物を持った。 「待った。送ってゆくよ」 「自転車だよ」  相澤は髭を剃ると、タバコとビールの匂いを消臭していた。 「やめた。体力がない。車で行く。自転車は後ろに積んでいく」  学生のフリはやめたらしい。  相澤の車で家に戻ると、店に佳親がいなかった。
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