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「季子さん、兄さんはどこでしょうか?」
「藤原さんの家に行くと言っていたわよ」
車で行くと、藤原の家は遠い。山を迂回するためだ。
でも、会って話した方がいいであろう。俺は自転車と荷物を降ろすと、部屋で簡単に着替えた。
佳親に電話をかけてみると、ずっと留守電であった。
「相澤さん、行こう」
「藤原の家でいいのか?」
港の倉庫と言いたいが、相談した方がいいのは確かであった。
「藤原の家」
車が走り出すと、歩く征響の姿が見えた。助手席で俺が隠れた瞬間、気付かれてしまった。
「弘武!又、何かやったな」
参道に人が多く、車が徐行であったので、征響は後部座席のドアを開き、中に飛び込んでいた。そこに、秋里までもが飛び込んできた。
「秋里先輩まで!?」
どちらも降りてくれる気配はない。
「弘武、何をやった?」
「俺はしていない。今、佳親兄さんに会いに行こうとしていたところ」
どうやって説明したら良いのか考え込んでいると、相澤が上手く説明してくれた。四区の学生が拉致されているということが、ポイントで肝であった。
「そういうことね……」
秋里が、どこかに連絡していた。
「あのな弘武、弘武は四区に行った天神だな?だから、却って両方知らない」
征響は、ため息をついていた。
藤原の家に到着すると、そこに天神区の征響の友人が何人か来ていた。
「これが天神チーム。サッカー仲間だけではなくて、これがチームなわけよ」
四区のスットパー役は、ちゃんと決まっていたのだ。
「四区と天神区は、昔から共存している。どちらが欠けても成立しない」
天神が四区を守護し、四区は天神を敬ってきた。
「では行くぞ」
佳親に会いに来たのだが、会わずに行こうとしていた。
「藤原は、弘武を俺の天狗と言っただろ。将嗣さんの天狗は佳親だ。あっちは、あっちでルールがあるのだから、放っておけ」
よく分からないが、藤原家の面々が丁寧に送迎してくれた。
到着した倉庫には、チンピラが見張りをしていた。その数、二十人は超えていたが、征響たちは天狗の面を被ると、全員蹴り飛ばしてどけていた。
「強いな」
俺も征響に蹴られていたので、痛みに実感がこもる。俺用の天狗の面も用意されていたが、これは本当に天狗なのであろうか。どこか、俺のだけ兎の面のように見えた。
征響の後ろを付いてゆくと、今度は用心棒のような体格のいい男が数人待ち構えていた。
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