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藤原の説明に、再びコーラを吹いてしまった。中学から、肉体関係にあるのか。俺など中学一年では、女の子とキスがやっとであった。
「……親父の夢は、今も昔も天狗を手に入れる事」
藤原もコーラを手に取ったが、ここでは飲まないようだ。
「ああやって、皆に見せて自慢したいのさ」
あれは、わざとなのか。見せているのか。それで、俺は見てしまったのか。
「麦茶にして、戻ろう」
俺はコーラを諦めると、麦茶を手に取った。隣には藤原が歩いていた。
「俺も天狗を手に入れることを夢見たけどさ、俺の代は征響さんと知り、ちょっと諦めた。征響さんとは、ああはなれないだろう。別の形でもいいのかと考え直していた。でも、今日、改めて弘武も天狗なんだと思ったよ」
いつも、俺の事を天神の森の天狗と呼んでいたような気もする。
「天神の森ではなくて、天神の天狗。弘武は天神チームなんだよな」
俺は横を歩く藤原を見た。藤原は、俺を天狗と呼びつつも、その意味は一度も教えてくれない。
「由幸、俺が天狗ではダメなのか?」
佳親や征響のような存在には、俺はなれないということか。
「いや。天狗が手に入ると思った瞬間に、全世界が別物になった。俺は、弘武を手に入れられるかな?いや、問うまでもなく絶対に手に入れる。どんな事をしても手に入れる。全然迷わなかった」
それで、天狗とは何なのであろうか。
「じゃ、俺が天狗でもいいのだな」
「そう。俺の天狗ならいい」
部屋に戻ると、皆が正座していた。
「話は付きましたね。藤原?」
「おう。俺の天狗は弘武」
正座のまま、全員に頭を下げられてしまった。
「では、俺達の天狗も弘武ですね」
「そうだな。でも、俺以外は征響さんでもいいぞ」
伊東は首を振っていた。
伊東の説明によると、無法地帯の四区では、天狗が法律になる。それぞれに、信仰のように敬いつつも、守っている天狗がいるのだそうだ。
「成立しました。俺達が弘武を育て守ります」
ちょっと待て、同じ年であるのに、育てはないであろう。
「同じ天狗を仰ぐ同士というのは、兄弟と同等」
皆で乾杯しているが、その飲み物は酒ではないのか。
「明日、学校だろう!」
「四区ですよ。酒は栄養の入っただけの水!」
付き合いきれない。俺は家に帰るかと、部屋の外に出た。
「送ろうか?」
藤原が部屋から顔を出した。
「いいや。外の誰かに頼んで、車を出して貰うよ」
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