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四区の夜は怖い。知っているからこそ、無理はしない。
玄関から外に出ると、藤原の手配であるのか、車は既に用意されていた。
「送りますよ」
若い男が、俺を家まで送ってくれた。
「ありがとうございます」
車が去ると、階段を上り部屋に入る。
明日、天狗とは何かと、佳親に聞いてみよう。でも、佳親は将嗣と中学時代から、デキていたのか。それなのに、俺には藤原を近づけないようにしている。
布団に飛び込むと、眠ってしまっていた。
次の日、朝練に行くと、岡森が先に来て走っていた。
「岡森、早いね……」
俺が着替えていると、有明もやってきた。
「岡森!」
岡森は、バスケ部一年の大黒柱のような存在であった。言葉数は少ないが、存在感と安心感がある。信頼できる仲間であった。
今日の岡森は、無言で走り続けていた。
岡森の無表情はいつもであるが、今日はどうも様子がおかしい。
「どうした?」
外周を走りだすと、岡森がポツリポツリと話してくれた。
「兄が帰って来ない。連絡も取れない」
岡森の兄は、元々、真面目ではなかったが、連絡もなく三日も帰って来ないのは初めてであった。
まさか、倍薬(ダブル)の売人であったのだろうか。四区から、どこかで制裁を受けているのか。
「岡森、兄さんは何か危ない事に手を出していたか?」
「いいや。俺の家は三区で、四区が隣接していたので、危ない事には手は出さない。怖さはよく知っているから」
怖さを知っているのならば、大丈夫であろう。
最後に会った時の様子を聞いてみると、普通であったという。普通では、普通を知らない俺には分からないと言うと、征響の名を出して妙に納得されていた。
まず夜中に帰ってくる、岡森の兄は居酒屋でバイトをしているので、それは日常であった。バイトで残った惣菜を貰ってくるのか、いつも何かを冷蔵庫に入れる。そして、風呂に入る。それから、水を飲みながら、筋トレして眠る。
「筋トレは一緒にしました。兄は、水無瀬という新しいバイトが入ってきて、すごく仕事ができるから驚いたと言っていました」
岡森は、水無瀬を知らなかったが、岡森の兄はどこかで聞いた名前なんだと考え込んでいたという。
「……水無瀬か……」
もしかして、それが失踪の原因なのではないのか。
「岡森、俺も探す」
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