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天狗は天女よりも美しかったという説もあり、時折、天狗とは言い難い妙な面が混じるのだそうだ。面作家もトランス状態で作るので、出来てみて驚くらしい。
「あの面を見て、征響は印貢だと言った。俺もそう思った」
俺は兎なのか。もう少し、強そうな面が良かった。
「面を付けているのを見て、似合い過ぎて笑ってしまった。刀の上に飛び乗って蹴りを出せるのは、印貢くらいだ」
天神チームは全員で、爆笑していたらしい。面の通りのウサギであったのだ。
「……悔しい」
爆笑されていたのに、面に隠れていて気が付かなかった。
「俺は嬉しかったよ。ずっと、印貢が入るのを待っていたから。これからも、よろしく」
倉吉がにこやかに握手してくれた。
「よろしくお願いします」
天神区には住人が少ないが、本当に天狗の子孫と思える強い者が揃っていた。
部屋に戻ると、シャワーを浴びようかと服を脱いだ。シャワー室に入ろうとすると、階段を登る音がして、ドアをノックされていた。
腰にタオルの状態なのだが、窓から外を見ると佳親であったので、ドアの鍵を開ける。
「兄さん、どうしました?」
「狭いシャワーではなく、母屋の風呂を使え。それに夕食も母屋にしろ」
服を脱いでいるので、このままシャワーにしたい。しかし、佳親は戻る様子もなかった。
「分かりました」
ジャージを再び着込むと、着替えを手にした。
「将嗣のところで見てしまったのだろう?何か聞きたいのではないのか」
「中学からデキていたと、由幸が教えてくれました。他にありますか?」
見ていたというのならば、もっと昔から見ていた。
「そう、中学から四区と天狗であったからね。皆中学くらいから天狗になるけど、俺は、弘武が天狗になるのを反対していた。弘武にはこの土地に関係なく生きて欲しかった」、
佳親と並んで母屋に行くと、季子が食事を用意していた。庭では、征響が仲間とサッカーをしていて、そっちの分の夕食もあるようだ。
「弘武、来い!」
風呂に入りたかったのだが、征響に呼ばれサッカーの練習に巻き込まれてしまった。倉吉も来ていて、丁寧にサッカーの基礎を教えてくれた。
「……俺、バスケ部」
「天狗ってもう知られたから隠さないけど、天狗は球蹴りが好きな連中」
倉吉も、まるで、おもちゃのように球を操る。
「弘武は……秋里に懐いていたと思ったら、倉吉にも懐いていたのか。俺以外には、よく懐くな……」
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