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「かわいいからね。ほら、基礎を教えただけで、あれだけ伸びてくると嬉しい」
手本がいいのか、ボールが足に馴染む。
「やっぱり、サッカーをさせよう」
征響が何か決めている。
「弘武、風呂に来たなら、早く入れ」
佳親に怒られて、母屋の広い風呂に入る。確かにシャワーよりも気持ちはいいが、他人の家の風呂は気を使うのだ。
着替えて部屋に戻ろうとすると、又、征響に捕まっていた。
「夕食だろ?」
「その前に洗濯をしないといけないので、戻ります」
運動部の洗濯は多いのだ。
「しておきますよ」
希子は言ってくれたが、洗濯ならば小学生の頃からしている。そう苦ではない。
「いいや、自分でできますので大丈夫です」
部屋に戻ると、洗濯物を出し洗いだす。その間に、学校のレポートを仕上げ、苦手な科目のチェックや、勉強を始めてしまった。将来何なるのかは決めていないが、検事とか裁判官に憧れている。正しいということを考えるというのが、俺にはかっこよく思えてしまう。
終わった洗濯を、屋根付きのベランダに干していると、征響が外からベランダに上がってきた。
「夕食と言っただろ。たまには、一緒に食べろ」
命令口調ではあるが、征響も夕食を取らずに待っていたらしい。
「はい」
「天神チームの天狗は、一緒に飯、風呂、勉強する。言葉ではなく相手を読めないといけないからさ」
征響に連れられて母屋に行くと、皆が並んでテーブルで待っていた。まるで、合宿のようであった。
「すいません、遅くなりました」
「それは、いいけど。弘武、何か隠しているだろう?」
征響の隣には、秋里が座っていた。ここには、決まった席があるらしい。空いている席はあるのかと探してみると、端のほうに食事が置かれていた。
この席でいいのかと季子に聞こうとすると、季子は首を振っていた。
「弘武は、俺の隣だろう……見事に通り過ぎたな」
征響を挟み、秋里の反対側の席が空いてはいたが、そこには座りたくなかった。
「ここで、いいです」
「ここは俺の席」
中学生もいたのか。端は、中学生のたまり場であった。
仕方なく征響の横に座ると、揃って食事が始まっていた。
「で、印貢。何があった」
どう切り出していいものか、迷っていると征響に頬を引っ張られていた。
「弟の分際で隠し事をするな」
テーブルの下では、足も蹴られていた。
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