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それは確かに驚く。四区の中学から来た者は俺しかいないと噂になっていたので、私立からの受験があるなど忘れていた。
「征響とサッカーしなくていいの?まあ、もう遅いけどさ」
「俺は、征響さんの好敵手になりたくて、別の高校にした」
俺は、箸を落としてしまった。慌てて征響の顔を見ると、ニヤリと笑っている。
「……それは、かなり面白い。ちょっと俺もサッカーしたくなった」
湯沢も面白い。それに同じ高校にいるというのが、俺にはありがたい。
「なあ、俺、あれこれ秘密があるのだけど、どこまで話してもいい?」
相澤の件以外にも、色々とある。同じ高校で疑われるのは辛いので、最初に話してしまいたい。
「全部、いい。そのために、俺は、強くなった」
どうにも湯沢は緊張すると、片言になるらしい。でも、嘘はないと分かる。
「征響にも言っていない秘密だけど、それでもいい?」
念を押しておこう。でも、征響の眉が僅かに動いた。
「全部と言った。全部受け止める」
このドンとした感じはいい。俺が、どちらかというと浮いているので、バランスがいい。
「俺の部屋がいいかな。湯沢の部屋に行ってもいいかな?」
そこで、征響がテーブルに拳を乗せた。
「ここで話せ。二人の秘密はナシ」
「嫌だ」
征響の言葉を遮ると、周囲が強張っていた。
「同じ高校でしか分かりにくい事もある。必要ならば、湯沢の判断で征響に報告しても、俺は構わない」
湯沢を信じなければ、話そうとは思わない。
「…………倉吉、こいつらのサポートも頼む。中学生よりも手に負えない。それと、弘武。兄弟として、少しは話せ」
兄弟としてと言われると、少し考えてしまった。俺は、迷惑をかけているのかもしれない。
「分かった。後で、征響の所に行く……」
「よし!」
征響が上機嫌になったので、周囲の緊張が解けた。征響は、全員に影響力があるということがよく分かる。
夕食後、俺が一旦自分の部屋に戻ると、征響は途端に不機嫌になったらしい。慌てて秋里が俺の部屋に来ていた。
「征響の所に行け」
「はい。俺の端末を持ってゆきます」
秋里にせかされて連れてゆかれ、征響の部屋に押し込められてしまった。
考えてみると、征響の部屋に入ったのは初めてであった。先ほど食事をしていたリビングの隣であるが、庭に面して広い部屋があった。
「好きな場所に座れ」
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