『天神四区』

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 征響が机の前にいたので、一番離れたテレビの前に座ってしまった。 「会話するには、遠いね」  でも、画面を必要としていたのだ。 「俺の学校に野中先輩がいまして。サッカー部の久哉の兄です。港地区の防犯カメラを見られます」  野中に頼み、岡森の兄を探して貰った。ピッタリ該当する人物はいなかったが、不審な動きは発見できた。  テレビ画面に、倉庫に出入りする車の映像を映す。ワゴン車の中に人影があるが、出てくる時には人影はない。それを、幾度も繰り返していた。 「俺は、水無瀬先輩の動きが、あまりにも一貫していない点も気になります。倍薬(ダブル)に関わりながら傍観していた。臓器売買も雑過ぎる」  どれも金儲けであるが、一貫性という点では何かが違う。 「龍仁への動きも気になります」  全部を合わせると、これは、繋がりがあるのかもしれない。 「倍薬(ダブル)は進化している薬です。皆があれこれ試しては、感想を言います」  様々なツールで、学生は繋がっていた。一人の意見が、次の日は標準のようになる世界であった。 「これは、実験です」  水無瀬が築いた実験場が、天神区であったのかと思う。 第十章 天神死区  俺個人の意見になるが、水無瀬という冷静で切れる人間の計画にしては、臓器売買も倍薬(ダブル)も穴が多かった。  まず安価な薬を用意する。これを合わせて飲む、倍飲むを繰り返すと、幻覚や高揚感、恍惚感など様々な現象が出る。何故、安価でなければならなかったのか、それは学生がターゲットであったためだ。学生は、友達に安易に勧め、試した結果を公開する。その公開が次の使用者を誘う。  金のかからない、これは試薬の開発であった。最高の組み合わせを見つけるために、皆は競って使用し、独自の組み合わせを生みだした。  組み合わせの薬物を造れば、これは薬物として売買できる。  今度は自殺させて、解剖させた。これで、人体に及ぼした影響が分かる。  臓器売買と噂をたて、もしかして、本当に売買しながら、水無瀬は結果だけを求めたに過ぎない。  臓器売買で捕まるのは、港のチンピラ程度であろう。 「水無瀬はここで人体実験をしている、それが俺の仮設です」  この仮説を裏付けるのは、今回の拉致であった。結果、出来た薬を試す人材が必要なのではないのか。それも、真面目な学生ではダメで、見つかっても、倍薬(ダブル)をやったのかで済む方がいい。
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