『天神四区』

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 征響は、俺の端末を見て、他に裏ビデオ?のような画像を見つけて削除しようとした。プロテクトをかけておいた筈なのだが、征響には通じなかったようだ。  俺は削除できないように、端末を征響から離した。 「それは、倍薬(ダブル)のビルの内部の映像。趣味で見ているわけではありません」 「未成年に見せられない」  この画像は、解像度が悪く、編集しなければ顔の判別もできない。必要な部分のみ、相澤の家のソフトで、画像をクリアにしている。 「龍仁が客を連れてきていると、野中から連絡を受けました」  野中のメールを征響に見せる。それは相澤にも行っている。相澤は既に動いているだろう。  それで、俺はどうするのかと言うと、基本的には何もしない。相澤が捕まっている人間を助けてくれる筈だ。 「警察に監禁の情報が流れています。俺達は何もしません。監禁されている人間を戻してくれれば、今回はそれでいいのです。龍仁は怒るかもしれませんが、これで捕まる奴ではありません」  制裁は他の方法で取る。  征響が立ち上がって歩いてくると、俺の前にしゃがみこんだ。ため息をつきながら、俺の顔を見つめる。 「兄弟になって三年だよな。俺は、弘武を無視しておこうと思っていた。叔父の子供でいいと思った」  俺も、一生、征響に無視されているのかと思っていた。 「でも、これは天狗だと気が付いた。その感は間違っていない。何をする気なのか、言ってみろ」  俺は、端末の中に隠してあるファイルを出した。 「倍薬(ダブル)を精製する設計図です。倍薬(ダブル)のデータは警察と組織のものを流用、他、得られたデータから導きました。これは安価な材料で、高精度のモノができます。漢方、薬学のデータベースも併せ、完成できるレベルに展開しています。これをホーにプレゼントしました」  俺だけでこれを造ったのではなく、ホーが俺の端末の情報を勝手に見て、作り上げる人材を紹介していた。俺が組み上げてゆくと、勝手にサポートが入り、完成へと近づけてゆくのだ。しかも、プレゼントというよりも、ホーが勝手に貰って行ったという方が正しい。伊東といいホーといい、俺の情報を勝手に利用する。 「ホーはこれを専門機関で試薬とし、既に商品化のメドをたてました。それを今日の夜に公開します」  だから、今回だけ凌げればいいのだ。もう、倍薬(ダブル)の魅力はない。
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