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銃に対し金属バットで応戦していた。それも、とても強い。
「……強いな」
「ああ、今頃、面を付けている。……顔、見えていたよな」
慌てて逃げてゆく黒服の男達を、追う事はしないようだ。
「去ったぞ。安心しろ」
叫ぶと、天狗は各自の家に戻って行った。
「良かった……」
いや、窓の外にまだ人影があった。ドアの鍵を慌てて締めようとしたが、ドアが蹴り飛ばされていた。
「水無瀬、先輩?」
実物は初めてみる。白い顔をしていて、白いシャツに、黒いズボンを履いていた。ドアを蹴って入って来たとは思えないほど、静かな感じの華奢な青年であった。
「君は、印貢君だね」
水無瀬の顔に貼り付いたような笑顔は、狂気を纏っていた。
土足のまま部屋に入ってくるので、つい靴を指さしてしまった。
「靴、脱いでください」
「長居はしないよ。早く逃げないと、久芳に殺されるからね」
ふと自分の足を見ると、俺も靴を履いたままであった。部屋に飛び込んだので、脱いでいなかったのだ。
「水無瀬先輩が欲しい物は、金ではありませんでしたか?」
ずっと理由が分からなかった。
「そうだね。龍仁は背に、大きな龍の入れ墨があってね、天井の鏡で見ていると、生きているように俺の上でうねる」
水無瀬の頬が上気していた。
「俺は龍に抱かれている。その恍惚感が分かるかな。倍薬(ダブル)の比ではないよ。龍は凄く、いいんだ。内臓を押し上げて、人間なんて精神ごと崩壊させて昇天する」
水無瀬は手に銃を持っていた。でも、銃の撃ち方は知らないようだ。片手で銃を撃つと、衝撃であらぬ方向に球を発射させてしまう。
「……色んな男の接待をしたけど、龍は汚くない。俺の中を腐らせるような、人間の性的排泄行為なんかではない……龍はな、俺を浄化もする」
天井の鏡で、水無瀬は龍仁の背を見ていたのか。だから、あの接待部屋でなければならなかったのだ。天井に鏡があり、映像を残してくれる。
「俺は龍に崩壊されて昇天を繰り返し、粉々になったよ。内臓もぐちゃぐちゃで、身体も心もボロボロになった。……そして生まれ変わった……」
水無瀬が銃を持って近寄ってくる。銃の腕がなくても、至近距離ならば関係がない。
「これで、久芳にもう馬鹿にされない。弟を殺されたと一生俺を恨め」
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