『天神四区』

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 俺は銃口が、何故か藤原に向けられたので、咄嗟に壁に隠していたナイフを投げた。このナイフ投げもホー仕込みで、この距離ならば外す事もない。  慌てて指に力が入ったのか、水無瀬はそのまま引き金を引いていた。 「藤原!」  銃弾は俺でもなく、藤原でもなく、開いたドアに吸い込まれた。ドアは、反対方向であったのだが、ドアの開く物音に水無瀬も振り返ってしまったらしい。  開いたドアに立っていたのは、藤原を追ってやって来た、護衛のチンピラであった。 「平戸!」  平戸は、胸から血を吹き出し、後ろに倒れ込んだ。それから平戸は、階段の手すりから、道路に向けて体が傾いた所で止まった。まだ手摺りを掴んでいるので、意識はあるようだ。 「撃ったな……」  俺の目の前で、仲間を撃った。 「ほら、印貢、殺されたいの?龍仁は怒ってね。俺を殺すと言ってきたよ。心中もいいよね。でも、俺、死にたくなかったよ」  水無瀬が自分の頭に銃口を向けようとして、又、藤原に銃口を向けた。 「印貢は俺だ!そっちは無関係だろ」  水無瀬は俺を見てから、又藤原に戻った。 「久芳の弟を庇っても無駄」  俺が弟なのだが、確かに似ていない。でも、水無瀬ならば事前に調べるなりするであろう。  水無瀬は、正気ではない。 「印貢、藤原、伏せていろ」  相澤の声がすると、水無瀬に向かって銃弾が発射されていた。  ボコっと凄い音がしたが、水無瀬はそのまま立っていた。 「あ、相澤さん、ここ防弾ガラスです」 「……早く言え!」  水無瀬は涎を手で拭う。 「知っているか?アレが自分の奥を出入りすると、凄く、キモチイイ。奥まで貫いて、正気を喰らってゆく」  これは水無瀬なのであろうか。人間の顔をしていなかった。獣のような目で、表情も獣になっていた。 「やっぱり腹上死がいいよね。俺は銜えて昇天できるしね」 「水無瀬、動くな!」  相澤が銃を構えて、ドアに立っていた。  しかし、水無瀬は反対側の窓を開けて、外に飛び降りていた。  俺は、もう水無瀬を追いかける気はしなかった。もう終わっているのだ。 「相澤さん、一人で来たの?」  水無瀬は逃げているのではないのか。相澤も窓から隠れるように外を確認し、走り去る水無瀬の後ろ姿を確認した。 「応援は呼んでいるけど、間に合わなかったね」  相澤も、素直に逃げられたとは言わない。  水無瀬の姿が消えてから、救急車の音がしていた。
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