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「あ、俺、素性は隠しているからな。学生のフリをしないと」
今度は、サイレンの音がしてきた。
「ここで混ぜて、友人Bでいさせて」
友人と言うのならば、まず髭を剃って欲しい。相澤は、急いで来たのか、髭もそのままで、足はサンダルであった。
「相澤さん、髭剃って。でも、その前に平戸さん!」
平戸は、佳親によって道路に運ばれていた。止血処理がされているが、もう息をしていない。
「弘武、由幸、もう一人、相澤君?母屋に入っていなさい」
階段を季子が掃除していた。ここで銃撃されたと、気付かれたくないらしい。
「はい」
母屋に入ると、征響がリビングで顔をしかめていた。
「水無瀬に銃撃されたのか?」
「はい」
雑誌を丸めると、征響が俺の頭を殴る。
「はい、じゃないだろ。俺は、佳親に外に出るなと言われたけど、誰か撃たれたな?」
藤原が俯いていた。
「ウチの若い者が撃たれました……」
助かる見込みは少ない。酷い出血であった。
「……藤原に連絡したのか?」
藤原は自分の携帯電話を手に持って、幾筋か涙を流した。
「親父、平戸が撃たれた。撃ったのは水無瀬という学生で、後ろに龍仁がいる」
電話の向こうの様子は分からないが、藤原は何度か頷いて電話を切った。
「将嗣さんは、何か言っていたか?」
征響の横に、コーヒーを持って秋里が来ていた。
「ここで保護されていろ。ここは、子供の出る幕ではない」
秋里から俺にもカップが渡されたが、ココアであった。コーヒーに取り換えようとすると、トレーを上にあげられてしまった。
「子供はココアね」
俺と秋里は二歳しか違わない。
「秋里先輩、こんな夜中にここに居ていいのですか?」
「年中いるよ」
それは知らなかった。俺は、母屋には殆どいない。
「同じ世代の天狗の結束は絶対だ。秋里の他にも、いろいろいるよ」
高校受験の塾のようにもなっていた。秋里は、征響の部屋で中学生に勉強を教えていた。
中学生には聞かせたくないので、リビングで今起きた事を征響に説明した。
龍仁は取引を邪魔されて、かなり怒っている。水無瀬は龍仁に殺すと言われていること。
「水無瀬は、龍仁の所の幹部を知っている。弘武の映像によると、幹部の全てと寝ているようだしな」
俺の映像?もしかして、征響も勝手に端末の中身を見たのか。
「水無瀬の性格からすると、幹部を殺して、自分を龍仁に殺させるだろう……な」
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