『天神四区』

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 秋里が、のんびりとテレビのスイッチを入れた。 「ほら優等生って、居場所が少ない。居場所が無くなった人間は、あれこれ道連れにして死んだりするしね」  秋里が実感の籠った口調になった。俺は、征響の顔を見る。居場所の少ない優等生は、ここでは天狗になっている。 第十一章 天神四区 二  次の日、学校では、付近での銃撃戦発生により死傷者が出ているため、放課後の活動は禁止となった。 「湯沢、一緒に帰ろう」  湯沢は家も隣であるが、クラスも隣であった。湯沢も自転車通学で、今まで会わなかったのが信じられないくらいであった。  相澤は学校を休んでいて、家には来るなとメールが入っていた。相澤は刑事の仕事をしているらしい。 「え、印貢って湯沢と友達?」  有明が驚いていた。俺と湯沢に接点がない。 「湯沢の家、俺の隣の家だよ」  俺が説明すると、有明が驚いていた。  湯沢は無言で荷物をまとめると、走る様に俺の隣に来ていた。 「印貢、サッカー部に来い」  何の前触れもなく、湯沢が呟く。放課後の活動は禁止だというのに、サッカー部の部室に来てしまった。 「どうしたの?」  湯沢はロッカーに、護身用の警棒などを持っていた。 「門の外、不審者がいる」  俺にも警棒を寄越したが、俺は、こういうのは使用したことがない。 「自転車で突っ切って、四区まで行こう」  ここでは目立ち過ぎる。 「そうだな」  家まで突っ切るには、階段がネックになる。階段で銃でも撃たれたら、いい標的であった。  念のため、自転車を門ではなく塀越しに降ろし、そこから四区まで走ってみた。後ろをついて来てはいないので、横から出たとは気付かれていない。  四区に入り一息つくと、携帯電話が鳴っていた。地区の防災情報で、学生が不審者に刺されたので気をつけるようにと、メールが流れていた。 「……刺されたって」  学生が、数人刺されていた。通り魔だということになっている。  再び電話が鳴ると、相澤から無事の確認がきていた。 「無事だけど、まだ四区だよ。家に帰っていない」 「危険だから母屋に帰れよ」  相澤は、護衛も兼ねてこちらに来たいのだが、次々と事件が発生し身動きが取れないらしい。詳しくは言えないそうだが、港で暴行された死体が浮かび、倉庫で腐敗した死体が見つかったらしい。 「あ、遅かった。囲まれた」
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