第六章 海の消える先二

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「逃がしませんよ」  藤原の本家というのは、海の見える丘の上にあった。 通された部屋の障子を開けていると、庭が見え、庭の先には海が見えていた。 俺は縁側から外に出て、秋田犬のクマに近寄る。  先が海だけになる芝の小山にクマを引っ張っていくと、ボールを投げた。 「クマ、来い!」  このクマが子犬だった時、藤原と連れまわしていた。 力比べもしたし、自転車で競争もしていた。  空の終わりに海がある。果てしない先まで、海が繋がっている。 俺と藤原は、この丘でよく話をしていた。  クマは大きいが、穏やかな性格の犬であった。 でも、今日は、そのクマが激しく海に向かって吠えていた。 「クマ、誰かいるのか?」  クマは何に吠えているのか。 俺が、吠えている方を見ると、見知らぬ男がふらりと入ってきた。
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