第11話 妻の眼差し

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安原は離婚の件を渋々だが承諾してくれた。 しかし、疑問に思うことがあったのか、それを俺に聞いてきた。 「遺言書はどうする?もしもの時の為のお前さんの財産は?」 結婚前、俺は遺言書をしたためた。 俺の財産を全て、香澄に譲る為に。 万が一、俺にもしもの時があった場合、残された唯一の身内が香澄だけとなる。 だから、報酬は生活費以外、極力使わないようしていた。 ちなみに安原が言うにはかなり貯め込んでいるらしい。 安原はそれを心配しているのだ。 税金対策やマネーロンダリングはしっかりとやっているので何も心配することはないが、問題は妻がそれを受け取るのか否かだ。 「無論、何もするな。全て香澄にやる」 「だが、不倫相手の実業家の方へ行ったら?」 痛い質問に俺は少しだけ戸惑ったが、それでも妻に譲ることに変わりはなかった。 「俺がいなくなったら、唯一の心残りは香澄だけだ。妻が幸せなら、俺はそれでもいい」 「相変わらず、優しいな。だがもし、放棄したら?」 「それも書き記したはずだ。俺が育った孤児院に全て寄付すると」 「だったよな。了解した」
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