第11話 妻の眼差し

16/30
前へ
/620ページ
次へ
ところが安原は首を横に振った。 「それくらい、自分で言うんだな」 安原は俺の後ろを指さした。 そこには聡美ちゃんが呆然と立っていた。 しかし、顔は見せずに俯いていた。 「とにかく、この件は下で話そう。向かいの喫茶店で待っててくれ」 聡美ちゃんにそう促すと彼女は小さく頷き、オフィスから出た。 俺は後ろを振り向くと安原は後ろを向き、拗ねていた。 「胸ぐらを掴んで悪かったな」 俺は安原に謝ると、オフィスを後にした。 向かいの喫茶店に入ると、既に聡美ちゃんが座って待っていた。 「最近、どうだ?」 とりあえず、挨拶から始めようとしたが彼女の目をふいに見た。 聡美ちゃんの眼差しは既に覚悟を決めていた。 最初は世間話から、話していこうと思っていたが、それは無用となった。 彼女の目がそうさせた。 「……本気なんだな」 俺は一言だけ、聡美ちゃんに聞くと彼女は答えた。 「はい」 ――どうやら、決意は固いようだ。 「分かった。安原には俺が話しておく。しかし、その代わり条件がある」
/620ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2356人が本棚に入れています
本棚に追加