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「妻があそこにいること、知っていたな?」
「ああ、そうだ」
――やっぱり。
今日の森次はどこかおかしかった。
珍しく、俺の事を心配していたからだった。
それもそうだ。
奴は銀行の中に妻がいる事を知っていたんだ。
しかし、森次は俺に詫びずにむしろ、開き直った。
「それがどうした?お前の妻は監視対象者だ。お前と結婚してからな。だが、お前がいたから、監視のレベルも低かった。しかしだ。お前らが彼女に事業の事を話そうとしているのを知った時、監視のレベルも上げだ。それにお前の妻は……」
「もういいっ!」
俺は森次に向かって、久しぶりに怒鳴った。
「どうして俺がお前に言わなかったと思う?お前の事を信じてないからだ。私情を捨ててると言うが、実際は私情と仕事の狭間で揺れ動いているじゃないか。そんな男をどうやって信じろというんだっ!」
森次が言い切った瞬間、俺の拳が奴の顔面に直撃し倒れ込んだ。
奴を殴るのは初めてだった。
しかし俺は謝りもせず、エレベーターに乗り込もうとした。
すると、
「俺だって、信じたいさ」
森次の本音が聞こえた気がしたが、俺はそれを無視しエレベーターのドアを閉めた。
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