第1章  ホテル仕様の学生寮  

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「寮はホテル時代の客室棟をそのまま使ってるんだ」  その言葉通り、寮の入り口はホテルのロビーそのままだった。四階建ての客室棟は中央のロビーエリアを挟んで南棟と東棟の二つが横に長く伸びている。  ガラス張りの二重扉をくぐって中に入るとフロントカウンターはそのまま残されているが、今は使用されておらず中はがらんとしていた。  ロビーのソファスペースやショップがあっただろう場所には個人用ロッカーがずらりと並んでいる。  靴箱というよりも更衣室で見かけるような縦長の、着替えまで入りそうなロッカーだ。広いので一見するとスポーツクラブの更衣室のようにも見える。  戸惑った顔の浩美を見て、篠田はぽんとロッカーをたたいた。 「これ、靴箱ね。けっこう大きいでしょ。夏目くんのロッカーはここ。これがカギ。開けっぱなしの奴も多いけど、いちおう閉めたほうがいいよ。いたずらされたりってことがないとは限らないから」 「なんで靴のロッカーがこんな大きいの?」 「冬の雪対策」 「は?」 「傘とか長靴とかブーツ用なんだ。かさばるし廊下が濡れるから寮内に持ち込むより、ここでしまったほうがいいってことで、こんな形になったんだってさ。実際にはみんなここに外用の靴とかサンダルとか全部入れられるから便利だって言ってる」  そうなんだ、と浩美はうなずいた。スポーツバッグから寮内用に持ってきたスリッパを出して履くと、脱いだスニーカーをロッカーに入れてカギを掛けた。
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