第1章  ホテル仕様の学生寮  

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 幅の広いベッドをみて篠田が言う。 「ここはダブルだね。部屋はツインかダブルしかなくて、ツインの部屋の場合はベッドがひとつ出されて、部屋にあるのはひとつだけになってる。違いはそれだけなんだけど、ツインのほうがよかった? ベッドがシングルになるからちょっとだけ部屋が広くなるけど、寝相が悪いならダブルベッドがいいかも」  篠田の説明に浩美は無表情に答えた。 「べつにどっちでも」 「じゃあ、ここで決まりかな。ここの隣りはさっきぶつかった北原。ツインがいいっていうなら、四階だったんだ」  それよりは三階がいいかなと思ってと篠田が顔を見ると、浩美は「ここでいい」とうなずいた。そしてなにげなくポケットから出した携帯が圏外なのを見て、首をかしげた。  今どきガラケーって珍しいなと篠田は携帯を見る。浩美が出したのは二つ折りの青い携帯だった。何かこだわりがあるのかもしれない。 「そうそう、寮内は携帯は通じないと思ったほうがいい。山の中だから電波状態がよくないんだ。そのうちWiFiの工事するとか言ってるけど、それもあやしいかもな。去年もそんなこと言ってて結局しなかったから」 「え、じゃあ電話はどうするの?」 「一階フロントに公衆電話が五台あるからそれを使うことになってる。さっき行くの忘れたな。公衆電話だから二十四時間いつでも使えるけど、消灯時間から朝五時までは特別な理由がない限り個室から出ちゃいけないことになってるからね」  マジかよと言いたげに浩美の眉が寄る。そんな顔もなんだか上品そうに見えるから、顔立ちが整ってると得だなと篠田は浩美の顔を眺めた。
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