プロローグ

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「私立鳳凰学園?」  夏目浩美(なつめひろよし)が編入先の学校名を告げた途端、園田光紀(そのだこうき)は顔をしかめた。 「そこって恋愛特区の学校じゃね?」 「恋愛特区? 何それ?」 「夏目、知らねーのかよ。ほら、すこし前に同性パートナーを認めたど田舎の自治体って話題になったじゃんか」  園田の言葉で、ああそんなニュースもあったかもなとぼんやり思う。  二〇一五年に渋谷区や世田谷区が同性パートナーを認める条例を出した後、同様の条例を定める自治体がいくつか出てきた。  そのほとんどが都心や人口の多いの自治体だったが、ある自治体が都心ではなく山間部で過疎のすすんだ場所だったことですこしばかり注目をされた。  しかも移住者に対して住宅や職業あっせんなど婚姻に準じる具体的な移住対策を含んでいたため(人口を増やすための苦肉の策だったのだが)、恋愛特区と揶揄をこめて呼ばれたのだ。  浩美が編入する学校のある自治体がまさにそこだった。園田の遠縁がそこで農家を営んでいるとかで知っていたようだけど、だからって。 「なに、園田、パートナー条例が認められてるとこだからって、学校に同性愛者がいっぱいいるとでも思ってんの?」  生まれてからこれまでずっと世田谷区在住の浩美にとって、パートナー条例の有無は気にかかる問題ではない。  そして実際、世田谷区に住んでいて中高一貫の男子校に通っていても、今までのところ同性愛者にめぐりあったことは一度もない。  べつに世間がさわぐほど多くはないのだろうというのが実感だ。学校内にも噂になる生徒はいるがあくまで噂だ。真偽を確かめるほど興味がないので尋ねたりしない。もしかしたらそうなのかもしれないが、だとしても個人の性癖など浩美には関係のない話だった。
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