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「いまの話はここにも書いてあるから、あとで読んどいて。とくに時間には気をつけて」
ライティングデスクのうえに、寮の注意事項というラミネートされた紙がおいてある。浩美がそれに目を通していると、ノックの音がした。
篠田がドアを開けると、寮監の田中と浩美の母親が立っていた。
「ああ、よかった、ここにいたのか。すれ違わなくてよかった」
寮の部屋を見に来たらしい。
「夏目くんの部屋、決まった?」
「ここでいいそうです」
「そう。どうぞ、お母さん。夏目くんが暮らす部屋です」
ざっと室内を確認して、母親がほっとした顔になる。
「本当にホテルのままなんですね」
「ええ。わりと快適だと思いますよ。ね、篠田くん」
「はい。個室だし居心地はいいですよ」
「そうなんですね」
ドアを開けてバスルームやトイレを一つ一つ確認する母親の横で、浩美はぼんやりと立っている。
「すこし安心しました。寒い場所の寮だからどんな感じなのかと心配していたので」
「こちらの南棟の二階から四階までが高等部の寮なんです。一階、二階には食堂や自習室などの共有スペースがあるので案内しますね」
「ありがとうございます」
母親がうなずき、田中が浩美のほうを向いた。
「夏目くんも一緒に来るかい?」
「あ、いえ。篠田くんに案内してもらうので大丈夫です」
母親と一緒に寮内を歩き回るのはきまりが悪いんだろう。さっきも廊下で注目を浴びてきたばかりだし。そもそも高校生にもなった男子が母親と並んで寮内を歩き回りたいはずがない。
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