第2章  よそゆきモードのひろみちゃん

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 ていうか、なんだあの篠田って奴は。  みんなが聞きたがった転校の経緯をさりげなくそらしてくれたのは助かったが、浩美の冷たい対応を「もう恥ずかしがり屋さんなんだからー」と笑い飛ばして抱きつくのは止めてもらいたかった。  おかげでよそいきモードも乱れがちだった。  我慢してもいいことはないとストレートに「抱きつかないで」とさっくり言ったら「人見知りなんだよねー」とにこにこスルーされて、「照れなくてもいいんだよー」などと頭をなでなでして浩美の不機嫌をますます煽った。  だがそのおかげで、そっけない対応をしても浩美は照れ屋で人見知りというイメージで受け取られ、反感を買わずにすんだのだ。それを思うと感謝するべきなのだろうか。  わざとなのか偶然なのか、たぶん前者だ。  篠田がそういう要領のよさを持っているのは感じ取れた。おまけに「ひろみちゃん」などという愛称までつけられた。  まだ小学生のとき「浩美」を「ひろよし」と読めずに、あるいは女子と間違えられて「ひろみ」と呼ばれたことは何度かあったが、この年になってまだそんな呼び方をされることになるなんて。 「ひろよしだから」ともちろん訂正したが「でもひろみちゃんのほうがかわいいし親しみやすいよね」と平然としていた。ひょっとしてこのまま「ひろみちゃん」で定着してしまうのだろうか。それもどうなんだ 。  これから三年近くを過ごすことになるからと、なんとか怒りを出さないように我慢してようやく談話室から逃げ出したのだが疲れ切ってしまった。  きょうのところはさっさとシャワーを浴びて寝てしまおう。スポーツバッグからジャージと長Tと下着を出すとバスルームに向かう。
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