第2章  よそゆきモードのひろみちゃん

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 ホテル仕様のバスルームだから浴槽だけで洗い場はないが、リゾートホテル仕様でゆったりめに造られている。意外に浴槽が深くて仰向けにすこし寝ころべば肩までつかることもできそうだ。  冬は雪がかなり積もると聞いている。体が冷えそうだから肩まで風呂につかりたくなるだろう。冬の生活はまだまったく想像できないが。  トイレと浴室が別になっているのも気分が落ち着いた。一般的な学生寮というイメージではないけれど、慣れればかなり居心地のいい部屋になりそうだった。  東京のじぶんの部屋よりかなり広いし。そう思って、次の瞬間、でももう自宅はないのだと思い出す。もうあの家に帰ることは二度とないのだ。  家を思い出したら、連鎖的に母親を思い出した。  ちゃんと家まで帰れただろうか。自宅に着くのはもう夜になっただろう。父と言い争っていなければいいが……。  母も浩美を学校に送ったら、数日中に家を出るつもりだと聞いている。  父は一人であの家で過ごすのか。  そこまで考えて、浩美は強く首を横に振った。いまここで何を考えても浩美にできることはない。心が落ち着かなくなって不安定になるだけだから、家のことは考えないほうがいい。  さっさと服を脱いで熱めのシャワーを浴びた。  シャワーから上がったらすぐに消灯前の点呼があり、廊下に出る。それぞれ部屋の前で待機していると寮監の田中先生がやって来て、顔を確認するだけだった。初日だからか浩美には声を掛けてくれた。 「夏目くん、困ったことはないか?」 「はい、大丈夫です」 「そうか。髪は乾かしたほうがいいよ、風邪ひかないように」 「はい、ありがとうございます」  返事をして部屋に戻ったら気が抜けた。  洗面所で壁付けのドライヤーで適当に髪を乾かしていたら、午前中の長距離移動の疲れや先ほどまでの気疲れでどっと体が重くなってしまい、浩美はベッドに入るなり気を失うように眠ってしまった。
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