第3章  隣の部屋のクラスメイト

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「あ、ごめん。わざわざありがとう。あの、どうぞ」  一瞬迷ったが、部屋に通した。  食事だけもらって部屋に入れないのも感じが悪いよな。寮生活が初めてだから、こういう場合どうしたらいいのか距離感がよくわからない。  手を出してトレイを受取ろうとしたが、寝起きの浩美をあやぶんだのか渡してもらえなかった。  北原はどうもと笑いながら部屋に入ってきて窓際のテーブルセットまで来ると、トレイを丸テーブルに置いた。それから床まで届くアースグリーンの遮光カーテンを開ける。  一気に部屋が明るくなった。  窓のそとは山々が見えて新緑がさわやかだ。窓越しに見えるその風景は現実感がない。映画館でスクリーンを見ているような感じがする。  昨日まで世田谷にいたのになんだか別世界だ。浩美はぼうっとその景色をながめる。 「座っていいか?」 「ああ、うん」  浩美も向かいに座ったものの、間がもたなくて迷っていると北原がうながした。 「あったかいうちに食いなよ」  箸を取って小声で「いただきます」というと、どうぞと返事があった。  見られながら食べるのって緊張するなと思ったが、北原は窓の外に目を向けて、目線は外してくれていた。  ふたつのマグカップのひとつを取ると口をつける。じぶん用のお茶も持ってきたらしい。  玄米ご飯にひじき煮、しらす入りの卵焼き、レンコンと豚肉の炒めもの、大根とほうれん草のみそ汁というメニューだ。朝食としてはなかなかのボリュームだった。  朝は食べられないというタイプだとなかなか大変かもしれないが、浩美はちゃんと食べるほうだ。  ホテル仕様の部屋で納豆のパックをあけて混ぜていると、いったいここがどこだかわからなくなってくる。
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