プロローグ

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「まさか。んなわけないだろーけど。っていうか鳳凰学園は山ん中の全寮制だろ? でもってお前のその顔だろ、何があるかわかんないじゃんか」 「その顔ってなんだよ。なんもないに決まってる」 「学園一のクールビューティって中等部から言われてきただろ。バレンタインチョコだってもらってて、まだ自覚ないのかよ」  園田が面白がっているのが丸わかりのにやにや笑いで、浩美の頭をぐしゃぐしゃとなでる。 「やめろって、ほんとお前、子供みたいだな」  はたくように園田の手を押しやった。園田は怒りもせずに笑ったまま、浩美に肩をぶつけてくる。押し合いしながら「お前だって子供みたいじゃん」と楽しげだ。  自分の顔に関して、自覚はありすぎるくらいある。  クラスメイトに敬遠される程度には整いすぎて冷たそうな顔だということは知っている。もちろん敬遠されるのは顔だけの問題ではないのだが、浩美は人と関わるのが得意じゃない。  クラスメイトと親しくなろうと思ったことはないし、友達が欲しい気持ちより一人でいるほうが気楽で安心だと思っている。だから自分を変えようとかよく見せようと努力することはなかった。  それでもそんな浩美の顔だけを見て「憧れています」とふざけてバレンタインチョコをくれたりする生徒も中にはいたというだけの話だ。  中高一貫の男子校では浩美の容姿を学校生活の潤いとしている生徒が複数いて、浩美の彼らに対する気持ちは「物好きだな」の一言に尽きる。  浩美は基本的に愛想がなくて口数も少なく親しみを感じるコミュニケーション能力もないから完全に観賞用と見なされていて、決して人気があるとか頼りにされるというわけではなかった。
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