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「心配してんだよ。お前、誤解されやすいからさ。すこしは笑って愛想よくして、ちゃんと話して友達作れよ。そんで、離れてもまめに連絡しろよ。俺もするから」
浩美と目を合わせないでそう言うから、わかってしまった。
ああ、ほんとに言いたかったのはそれか。顔を見ると照れて言えないから、ふざけてたんだな。園田は口は悪いが面倒見がよくて、ずっと幼馴染みの浩美のことを気に掛けてかばって来てくれたから。
「大丈夫だよ。そこにいるのは大学に受かるまでの間だけの話だし。家を出られてほっとしてるくらいなんだし、ほんの三年の我慢だろ」
浩美はそう強がって見せたが、本音をいうなら幼稚園からの幼馴染みの親友と離れるのはやはり寂しい。小四から一緒に塾通いして合格した第一志望の学校をやめるのも本当はとても悔しい。
高等部に上がってまだ二ヶ月。当然卒業すると信じて通っていた中高一貫校をやめて、これから約三年を鳳凰学園で過ごすことになるのだ。
だけどそれは今の浩美にとって大したことじゃない。
とにかく今すぐ家を出られるなら、はっきり言ってどこでもよかった。
浩美の成績なら特待生で受け入れてくれるというのなら、それが恋愛特区の学校だろうが、山の中の全寮制高校だろうがそんなことはどうでもよかったのだ。
家を出て、住む場所を提供してもらえるら、それだけで。四六時中鳴り響く電話や夜中の来客やチャイムの連打に怯えたり、あんな顔をして罵り合う両親と顔を合わせずにすむのなら。
この半年足らずの出来事で浩美の神経はもうボロボロで、何とか落ち着いていられるのは学校にいる時間だけだった。
家にいるのは苦痛で、夜中の街をさ迷い歩く勇気もなく、そこまで自暴自棄にもなれず、でも他に行くあてもない浩美には夜を過ごすのは自宅しかなかった。そこがどんなに居づらくても。
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