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編入試験を受けてから今日までわずか一週間しかなかったせいで、学校のことなどほとんど知らないままでここに来た。
来ればわかるだろうと思って、あえて調べなかったというところもある。何を知ろうともここに来る以外、浩美に選択肢はないのだ。
電車の中で母親が話したところによれば、鳳凰学園は中高一貫の全寮制男子校で、名門大学進学を目標に少人数クラスできめ細かな授業をしているという。新設校だからまだ知名度は低いが徐々に人気がでている学校らしい。
その知名度をさらに上げるために浩美のような特待生を受け入れているのだから、頑張らなくては。
少なくとも偏差値レベルから言えば、今までの学校よりはかなり落ちる。
けれどもここでの頑張り次第で将来が決まるのだと思えば、絶対に目標を達成しなければと浩美は密かに決心していた。
「夏目浩美くん?」
「はい」
門扉の横にあるインターホンを押そうとしたところで、中から声がかけられた。グレーの地味なスーツを着たまだ若い男性が浩美の顔を見て、目を見開いていた。
穏やかそうなすこし垂れ目の男でよく言えば人のよさそうな感じ、悪く言えば鈍重な感じ。こいつはどっちだろうと浩美は意地悪く考える。
注目されるのに慣れている浩美は臆さずにまっすぐ相手を見返した。その目線に男がはっと気を取り直したように瞬きし、中から扉を開けてくれた。
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