第1章  ホテル仕様の学生寮  

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「初めまして、担任の大森正治(おおもりまさはる)といいます。校長室まで案内するよ。東京からこんな山奥まで大変だったでしょう」  前半は浩美に、後半は母親に向けて言いながら、大森は先に立って歩き出す。 「ええ、思ったより乗換えが大変で。それに山の中で驚きました」 「電車で来ると乗り継ぎが悪いんですよね。夏目くんは疲れたかな?」 「そうですね、すこし」  浩美は当たり障りなく答える。 「そうだよね。寮生活は初めてですよね?」 「ええ、自宅から出たことのない子なので、心配しているんですけど」  不安そうな母親に大森はにこにこと微笑みかけた。 「大丈夫ですよ。みんなそうですから。同年代ばかりですから、すぐなじむと思いますよ」  同年代だからすぐなじむ? 本気かよ。心のなかで冷ややかにつぶやく。  本気で言っているならかなりおめでたいとしか言いようがない。同年代の子供たちが集まった時の無意識のマウント争いやランク付けを知らないのなら、教師としては頼りにならない。  鈍重なほうか。だとしてもべつにかまわない。担任と親しくつき合う気はないからだ。  口先だけでもそう言って安心させようというタイプなら、これまた信用できない。どちらにしてもそんな発言をする時点で大森は信頼に値しないと位置づけた。 「だといいんですけど。お友達と仲良くできるか心配で。こういう田舎暮らしも初めてですし」 「東京から来ると相当田舎ですよね。でも元がリゾートホテルだった建物だから、寮のなかは案外設備が整っていて快適なんですよ」  あてにならない担任と母親の会話を聞き流しながら、校舎棟の来客玄関に案内されスリッパに履き替えた。  校舎はホテルとは別に新設したものらしい。階段で二階に上がり、校長室とプレートのあるドアをノックすると、どうぞと返事があった。大森がドアを開け、浩美はちいさくため息をついて母親とともに中に入った。
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