第1章

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朝から機嫌が悪い。 秀麗な眉間にくっきりと刻まれた皺。にこりともしない唇。端正な顔立ちだけに無表情になると取り付くしまもない。なにやら本を広げたまま顔を上げもしない秋月に、教室の友人達も今日は少し遠巻きになっている。 「……皺になってるぞ、葵」 後ろの席を振り向いて人差し指で眉間をつつくと、煩そうに振る頭に指を払われた―――昼休みの教室。 春も盛り。校庭の桜はもうとうに散って、小手毬や金雀枝が群れ咲いている。 暖かい陽射しの差し込む教室、最上級を示す女子生徒の制服のエンジのネクタイが目に新しい。男子はと言えば、ガクランの襟につく鈍い銀の記章の数字がローマ数字の3に変わったくらいで何の変哲もないのだが。 高校の新学期も始まったばかり、クラス変え直後の教室はまだなんとなく落ち着きが悪い。 「秋月、呼んでるぞ」 教室の入り口から級友の呼ぶ声。一つ吐息を落とした秋月がぱたりと本を閉じ、しぶしぶといった格好で立ち上がる。椅子に後ろ座りしたまま机に頬杖を突いて視線で追えば、胸に色とりどりの包みを抱え込んだ数人の下級生が廊下で笑いさざめいている。 「あの、今日、お誕生日ですよね」 「えと……プレゼントなんですけど」 お互いを肘で突つきあって含羞むような笑みを見せているネクタイの色は、二年生の浅葱色だ。 「悪いけど、受け取れない」 そっけない秋月の応えに、え、と少女達の笑みが消える。 「貰わない事にしているから……ごめん」 それだけ言うと、途方にくれた顔をしている女の子達に背中を向けた秋月がさっさと戻ってきた。 「……お前なぁ、ものには言いようがあるだろう」 涙ぐんで去っていく女の子達に同情して思わず責める口調になる。そんな俺をじろりと一瞥して秋月がどすんと腰を下ろした。 「長く言っても短く言っても同じだ」 けんもほろろとはこの事だ。そうじゃなくてと言う俺と目も合わさずに秋月がまた本を広げる。俯いた額にさらりと零れた前髪がその表情を隠した。 昼休みの間にそんな事が何回か繰り返され、秋月の機嫌はますます下降線を辿っていった。
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