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「なぁ葛見、なんで秋月は誕生日プレゼントを受け取らないわけ?」
煩わしくなったのか教室を抜け出していく秋月を横目に、級友の一人が声をひそめて聞いてくる。
「そういえば去年も受け取らなかったな……女子が騒いでいたっけ」
なんでよ?と顔を覗きこまれて。
「さぁな……宗教上の理由でもあるんじゃないの」
椅子の上で大きく伸びをしてとぼけてみせる。
「もしかして嫉妬深い彼女がいるとか」
「アタシ以外の女からモノを貰ったりしたら許さないわよ?とか」
いつの間にか周りに集まってきた級友達がああだこうだと言い始める。
俺たちがまだ小学校低学年の時だ。
秋月の母親が事故で亡くなった―――秋月の誕生日、その日に。
誕生祝いのご馳走を用意して、注文しておいたケーキを取りに行ったその帰りだった。
以来、やつは誕生日の祝いもしないし、プレゼントも受け取らない。
小中高と進学するにつれ友人たちはばらけ、そんな事情を知っている者もこの高校では少なかった。
「葛見くん、これ秋月君に渡してよ」
可愛らしい包みをいきなり胸にぐいと押し付けられて。びっくりして視線を上げれば、目の前には挑戦的な顔をして立つ女生徒がひとり。
「なに……高林、お前が秋月に?」
ショートカットの前髪の下の表情豊かな瞳がくるりと動く。どちらかと言うと少年ぽい肢体とかなり男っぽいさっぱりとした性格の彼女を密かに気にいっていたから。狼狽が顔に出たのだろう。周りからひやかしてくる級友達をなんだよと睨み返す。
「違うわよ。後輩から頼まれたのよ」
ひやかされて頬の紅潮した高林にまるで喧嘩の果し状のようにぐいぐいとプレゼントを押しつけられて。俺はホールドアップをした。
「俺に頼むな」
あんた秋月君と仲いいでしょうと親の敵のように睨みつけてくる大きな瞳に、ちょっと見蕩れる。が、すぐにそんな場合ではないと頭を振った。
「仲が良くっても出来る事と出来ない事があるんだよ」
「……もう!役に立たないんだから!」
「あ……」
捨て台詞で去っていく高林を見送る肩ががっくりと落ちるのが自分でも分かった。まぁまぁと面白半分で慰める級友達を手を振って追っ払う。
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