第1章

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そうこうしている内にも秋月目当てらしい女子生徒たちが、ちらほらと廊下の窓から中を覗いていく。去年受け取ってもらえなかった女の子達も今年ならと思っているのかもしれない。 あれこれとプレゼントを選んでわざわざ渡しに来る少女達が可哀相な気もする。しかし受け取らない訳をいちいち説明するようなカワイイ性格では、秋月はない。 お目当ての姿を見つけられずに帰って行く女の子達を見て、なんとなくまた溜め息が出る。 午後の授業の始まりを告げる予鈴が鳴っても秋月は戻ってこなかった。しょうがないな、と立ちあがる。 「ちょっくら探してくるわ」 言い置いて教室を出た。教師が来る前にと小走りに階段を駆け降りる。 行くなら人気のないところだろうと見当をつけて、渡り廊下から裏庭に出た。 校舎と潅木に陽光を遮られたそこは昼間でもひんやりとしている。羊歯の若い葉を踏むと湿った香りがたった。 低い雑木と茂みの向こう、大きな柳に凭れて秋月が立っていた。 枝を透かすように見上げるその横顔に浮かぶ表情は、不機嫌というよりは愁いめていて。つきんと痛む何かが身体を走って足が止まる。 「予鈴鳴ったぞ」 離れた所から声をかけると秋月が振り向いた。凭れていた木から背を離す。 「坂本は遅刻にうるさいぜ」 古文の教師の名に秋月が眉を顰める。 「……気になるなら先に戻れ」 仏頂面で拒絶するように言われてむっとする。茂みをひらりと飛び越えてずかずかと近づき秋月の手首を掴んだ。苛立ちの色を刷いた琥珀の瞳が見返してくる。 本鈴の鐘が鳴った。 「行くぞ」 秋月が何か言うより早く、俺は秋月の手を掴んだまま駆け出した。引っ張られて渋々と秋月も走り出す。 「恭介?」 渡り廊下から中に入ると思いきや、そのまま走り抜けて校庭に出る俺に秋月が困惑した声を上げた。 「浅野!」 校庭に出て教室の窓の下から級友を呼ぶ。2階の窓から友人が顔を出す。そんなところで何やってるんだと目を丸くしている友人に向かって俺は叫んだ。 「鞄投げろ!俺と葵の!」 「恭介!」 隣で声を上げる秋月を無視して早く投げろと浅野を急かす。にやりと笑った顔が引っ込んで、すぐに現れたその腕には2つの鞄。せーの!の掛け声と共に投げ落とされるのを胸で受け止める。 「こら!お前たち何をやってる!」 ナイスキャッチと声を上げた浅野を押しのけて、古文の教師が窓から顔を出す。戻って来いと叫んで身を乗り出した。
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