野鳥の声

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野鳥の声

 父の趣味がバードウォッチングだったので、俺も子供の頃から自然と野鳥に興味を持つようになった。  騒いだり、むやみに鳥を追いかけたりしないという約束を守れたおかげで、一緒にバードウォッチングに連れて行ってもらった。そのおかげでどんどん野鳥に詳しくなり、地元を離れて遠くの大学に通うようになった今も、一人でバードウォッチングに出かけている。  とはいいうものの、大学生活は何かと忙しくて遠出ができず、野鳥観察はもっぱら大学近くの公園でだ。  幸いにも、そこそこ田舎で公園自体が広いため、敷地内の雑木林には結構な種類の野鳥が来る。それを眺めたり声を聞いたりして楽しんでいるのだが、その日は、林の中から聞き覚えのない鳥の声が響いてきた。  父があちこち連れ歩いてくれたおかげで、声だけでたいていの鳥は区別がつくけれど、今の鳴き声には覚えがない。  この声の主はいったいどんな鳥なんだろう。  むくむくと好奇心が湧き上がり、俺は雑木林に踏み込んだ。  普段は周りをうろつく程度だったから気づかなかったが、公園の雑木林は思っていた以上に奥行が広いものだった。  帰り道が不安になる程の林の中を、声を目当てに奥へ奥へと進んで行く。  鳴き声の大きさからしても結構近くにいそうなのに、鳥の姿は見当たらない。でも、確実に声はするから、ついつい誘われるままに進んでしまう。  さっきより、少し声が近くなった。多分この周辺にいる。でもどこだ?  きょろきょろと四方を探す俺の頭上に、近いのに場所が特定できない野鳥の声が降って来る。その独特な響きが、ふと、遠い昔の記憶を揺さぶった。  まだ小学生になるかならないかだった頃、父と一緒にバードウォッチングに行った。そこで珍しい鳥の声を聞き、夢中で出所を探し歩いた。  あの時、ふいに父が俺の行く手を遮った。帰るぞと言われ、有無を言わさずその場から離された。  野鳥探しの最中だったから、俺はかなりむくれていたと思う。でも父は容赦なくその場を遠ざかって、強引に俺は家へと連れ帰えられた。  その理由を知ったのは、俺が小学校の高学年くらいになった頃だ。  二人でバードウォッチングをしていた時、ふと、いきなり連れ帰られたことがあったのを思い出した。それを話したら、確かこんな返事が戻ってきた。
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